森一生監督に聞く

 セットの片隅で次なる構想を練る森監督にインタビューを申し入れますと、快くそれに応じて下さり、雷蔵さんの事を語って下さいました。

 森監督

 「雷蔵さんの事を一口で云うのは、中々難しい。幾本かいっしょに仕事をしたが、観念的な芝居の出来る人でしょう。ええ、私から引き出すというより自分で出せる人ですし、表現出来る人ですね」

 そして新源氏については、「源氏物語、といえば何となしに誰でもが知っている。谷崎潤一郎、与謝野晶子、窪田空穂、近くは村上リウさんらが、それぞれの角度から現代語訳をだしておられるし、舞台劇でも舟橋聖一、北条秀司さんらの作品が有名だ。川口さんの原作は、光源氏を男の理想像として描いている。金があって地位があって、美男子で女に騒がれて、楽しんで一生を終る。考えてみればこんな幸福な男はざらにはいない。光源氏みたいな男になってみたいと誰しも思うだろう。そんな気持に誘うような描き方をしたいものだ。父の想い者である藤壺との姦通が、光源氏に大きな罪悪感として心の奥底に残り、常に悔悟がつきまとっている。ここにものの哀れというものをだしてみたい。」

 「また、女性の源氏の君に対する愛情にも、女のすさまじい執念、妄執というのを、ある程度はだしてみたい。色彩的にも現存の絵巻物調の夢幻的な面を狙いたい。雷蔵君の源氏の君は適役だと思うし、彼をめぐる女性群にも、個性のある女優が起用されている。国民文学として日本人が「源氏」に抱いているイメージをそこなわないように、ゴージャスなムードをうたいあげたいものだ。大映京都のスタッフは、その点この種の素材にはベテランが多く、準備がスムースにいくので助かる」とその抱負をのべていらっしゃいます。

顔に汗をかかない雷蔵さん

 或る日。取材のため撮影所内でうろうろして、俳優課をのぞくと、倉田マユミさんに紹介され、気さくな方なので、さっそくいろいろお話をうかがってみました。

 倉田マユミさん 

 「そうねェ『源氏物語』って男女の別がはっきりしているわね。今は男か女だかわからない格好しているけど・・・それに、私達ですら優雅で神秘的な感じがするわ。あんな衣裳をつければ女らしくなるわねェ。雷ちゃんって上品な色っぽさがあるのよ。『ぼんち』『歌行燈』といっしょでしたが、近代的な人、親切で面白い人、お仕事なんかでは雰囲気を作る人、どこでどう勉強しているのか知らないけれど・・・悲しい顔がすごくうまいのよ。それに顔に汗をかかない人ねェ。衣冠束帯の下に綿入れ着ているのよ、川崎さんなんか、雷ちゃんの事“人間じゃない”なんって云っているのよ、とにかく雷ちゃんといっしょでお仕事がたのしいわよ」