こんなことも参考に・・・

 この作品では出演者の演技、つまり出来上がって私達の目で見る事の出来る範囲ではいろいろ苦心もわかり、批評も出来ますが、この作品が出来上がっていく間には、それぞれいろいろと苦労があるわけですが、その幾つかをここにご紹介しましょう。

衣裳

 王朝物では、特にこの衣裳についての関心が多いわけです。雷蔵さんはこの作品で二十二点の衣裳を着ますが、全部新調です。王朝物では束帯、直衣、狩衣の三種類です。それも全部絹物です。このような王朝物の衣裳は、注文してから半年はかかり、以前は、京都御所よりその道の研究家を招き、着せてもらったのですが、正式の着せ方のため四十分はたっぷりかかり、撮影所のテンポに合わないので、この頃は来なくなったそうです。しかし、その人が着せるときちっと形になっていたそうです。又、今度のこの作品の衣裳代だけで、普通の時代劇にかかる全費用の二倍〜三倍はかかっているそうです。

メーキャップについては

 お歯黒をして、まゆをおとしたりしては現代のテンポに合わない、出来るだけ現代調をねらっているとのこと。ご覧になればわかるのですが、それでいて普通の時代劇とは違ったメーキャップをしています。

撮影の方ではどんな苦心をされているか

 大和絵調をねらいっている。大和絵と云うのはご存知でしょう。横に広いでしょう。ちなみに、スタッフ・ルームをのぞいてみると、その壁に王朝の大和絵がはってありました。

照明の方でやはり変っている所は

 普通の時代劇と違うのは、スカイライトと云って四角の中に、普通のライトの玉が四つ入っているのを、すき間なくずらりと並べている。その様な事は珍しいが、それも美しさを強調するために行われている一つの方法です。

その他、これは特にお話しておきたいと云う事は・・・

 雷蔵さん自身『鯉名の銀平』が終ってからすぐに、この作品のスチールをとらないで研究されたが、それだけに慎重でしたし、又源氏物語は世界的にも広く読まれていますし、日本ではワイドで色彩の王朝物は初めてです。

 大映だから、王朝物が出来ると云われるくらい、その道の先駆者であるとも云われ、つまり、スタッフにそれだけの知識をもった者が多く、専門家に聞かなくても、資料は大映京都撮影所にいくらでもあります。だから王朝物というと、実に正確にすべての部門が活躍するというわけです。

 例えば、ラストシーンで藤壺が尼になる所では、伏見瑞光寺の国宝の曼荼羅をかりて来たり、こまかい所まで神経を使っています。『新源氏物語』のねらいは、時代考証は正確に、感覚は新しくと云われている。