『炎上』で芸域にぐっと厚みを増した市川雷蔵は『濡れ髪剣法』で再び美剣士にふんし、こんど近作『弁天小僧』ではじめての女装になって、ぐっとイカそうとしている。この映画は、このところ沈黙の伊藤大輔監督が「徹底的に面白く、愉快な時代劇を━」をモットーにメガホンをにぎるチャンバラ映画だが、素材はカブキ劇。もちろん雷蔵は浜松屋の場で、「知らざァいって聞かせやしょう━」の名セリフを、さっそうというわけで、このシーンは『弁天小僧』の見せ場だ。そして、雷蔵は水もしたたる若衆ならぬイレズミのもろ肌ぬいだ悩殺ポーズの女装だ。イレズミは普通はサクラだが、カラー映画の効果をいかすために、菊之助にちなんで、菊を全身に彫っている。

 「歌舞伎のいろんな制約もなく、それに内容の花やかなものなので、どれだけ内面的な性格の掘り下げができるか、大変むずかしいと思うのですが、努力します。黙阿弥原作の白浪、つまり泥坊ではなく現在もよくあるグレン隊の手先のチンピラヤクザ的解釈をもって主人公を演じたいし、その味をうまくだしたいと念じています」

 と抱負を語ったが、東宝の青山京子とも初顔合わせをしている。

(西日本スポーツ  11/15/58 )

(西日本スポーツ  12/05/58 )