ブルーリボン受賞の感想

 時代劇スターとしてはじめてブルーリボン男優主演賞を射とめた市川雷蔵は「大へんうれしい。しかしこういういい方は誤解されるかもしれないが、まんざら青天のヘキレキでもなかった」と受賞を予期したような自信たっぷりの口ぶり。その自信をより一そう強めるようにいま大映京都で撮っている渡辺邦男監督『蛇姫様』がすむと、つぎはかねて念願であった『若き日の信長』、伊藤大輔監督の『お嬢吉三』と野心的な企画がつづいている。

 さらに西鶴の『好色一代男』を新人監督中のホープ増村保造監督の初の時代劇映画として撮る企画はことしの日本映画の企画としても白眉もの。

 名実ともに五十九年のスターとして期待される雷蔵に、受賞の感想とともに、これからの映画に対する心構えを聞いた。


 ○・・・受賞の対象に『炎上』がはいったことがいいようもなくうれしい。この『炎上』は監督の市川崑先生も数年前から野心をもやしておられたし、ぼくも三島(由紀夫)さんの「金閣寺」(『炎上』の原作)が発表されたときからやりたくて仕方がなかった。ところが京都の撮影所の幹部は、ほとんどこの企画に反対だったのです。それで仕方がないので、ぼくが永田社長におあいして直接おたのみすると「よし、冒険だがおもしろい企画だからやってみろ」ということになった。それで実現されたというわけです。

 ○・・・仕事をやる場合、これまでのペースから飛躍するのはなにかのきっかけがあったほうが飛躍しやすいのですが、ぼくはこんどの受賞を飛躍のスプリング・ボードにしたいと思います。たとえばぼくには色気と甘さがないとよくいわれる。もちろんこの場合の甘い色気というのが既成概念で俳優の色気というのはこうしたものだとあるワクを最初から決め、そのなかでいわれている場合もあります。しかしその場合は別としても、ぼくにはやはりそうした欠陥はあるのだろうから、こんどの『蛇姫様』の千太郎では艶っぽさというか、うんとこの色気をだしてみるようにしたい。この前の伊藤先生(大輔)の『弁天小僧』では倒錯的な色気があるとほめられましたが、こんどはそれをちゃんとした色気にするのが望みです。

 ○・・・それからぼくは今後はもっとひろく、たとえば「若い日本の会」(大江健三郎、石原慎太郎、谷川俊太郎、黛敏郎など若い世代の作家、詩人、作曲家などでつくられた文化グループ)などの人たちの意見も聞いて、映画芸術上のアバンギャルド(前衛)的な仕事もしていきたい。できるならぼくもその仲間にいれていただきたい。いうまでもなく映画は大衆のものですから、娯楽的な作品も、もちろん撮りますが、『蛇姫様』につづいて予定されている『若き日の信長』(森一生監督)など私の希望がいれられたわけですし、積極的に冒険もさせていただこうと思っています。


雷蔵に迫った小林

★ブルーリボン賞選考経過

 今年のブルーリボン賞が決定したが以下はその選考経過

 いちばん話題になるのは、やはり主演賞。男優は『炎上』『弁天小僧』などの市川雷蔵(大映)と『裸の大将』の小林桂樹(東宝)がせりあって雷蔵の勝ち。高橋貞二(松竹)も『楢山節考』でかなり点をかせいだ。女優は『白鷺』『彼岸花』の山本富士子(大映)に対し、『裸の大将』の新人丘さとみ(東映)がわずか一点差まで迫ったのは大したものだ。

 助演賞のうち男優は圧倒的に『炎上』『鰯雲』の鴈治郎(大映)にきまった。これにひきかえ女優のほうはどんぐりの背くらべ(?)で、結局渡辺美佐子(日活)に落ちついた。

 新人賞は今村昌平(日活)と沢島忠(東映)の二監督が猛烈にせりあったが、現代劇畑という地の利をえて今村に軍配が上った。このほか東宝の団令子もかなりの票を集めた。大衆賞はさきに長谷川一夫、片岡千恵蔵、市川右太衛門、渡辺邦男監督などベテランが受賞しているが、今年はぐんと若返って中村錦之助に決まったのが注目される。

(59年1月19日付の新聞切抜より)