喜久治の道楽は続いたが、彼は商いにも力を入れる『ぼんち』に成長していた。経済不況にみまわれた折、足袋の製造販売にも細かい工夫をこらした。高級品が目に見えて売れなくなり、不況の底が深まったころ、七色の色足袋を作るプランがふと頭に浮ぶ。年が明けると、色足袋は目立って売れはじめた。苦境を切り抜けた喜久治は、ようやく女遊びの余裕が出てくる。

 きのと勢以は、お福の人柄と白い肌に魅せられ、喜久治の子供を産ませようとする。

 「お家はんから、ええ赤子を産むように言われましてから一年余り、そない心がけて医者にも診て戴きに回りましたけど一向その気がおません」お福はさりげなく言い捨てる。