妻・弘子(中村玉緒)

 

 河内屋は、大阪船場の四代続いた足袋問屋。この老舗は、初代から三代つづきで、跡継ぎ娘に養子を取る母系家族であった。

 『ぼんち』・喜久治の父四代河内屋喜兵衛も番頭上がりで、妻(勢以)や義母(きの)に頭が上らなかった。女の妖気ともいうような不思議な空気が河内屋にはただよっていた。母系家族の家風に反感をもつようになった喜久治は、高商を卒業するころから女遊びを覚えた。

 「喜久ぼん、あんたこの頃、ちょっと遊びが過ぎるのやおまへんか」ある日、喜久治は祖母と母にたしなめられた。

 「嫁はんをおもらいやす。・・・あんたは大事なぼんぼんやさかい、妙な傷もんにならんうちに、ええ女雛はん探したげまっさ。ほんならみっともない女遊びせんとすむよってな」

 「嫁はん?早すぎますがな」

 喜久治はそう言いかけて口ごもった。河内屋を何代もとりしきってきた女のきつい眼の光に押されたのだった。

 母と祖母への反対をおしきれず喜久治は新興砂糖問屋の娘・弘子(中村玉緒)と結婚した。きのと勢以は、船場のしきたりや家風を口実に、嫁への冷たいしうちが続く。長男久次郎が生れると、弘子は家風に合わぬという理由で離婚されてしまった。自分の意見は入れられず妻を失った喜久治は、花柳界にひたり女修業が始まる。