○・・・雷蔵が七年ぶりに舞台をふむ大阪・新歌舞伎座の初日が一日、幕をあけて。養父の市川寿海が「久しく会えなかった息子と一緒にやれて・・・」と相ごうを崩しながら共演しているほか、淡島千景、新派の英太郎、井伊友三郎、瀬戸英一、桜緋紗子、霧立のぼる、安部洋子という顔ぶれの面白さは当たったようだ。

○・・・出し物は、山崎豊子の「ぼんち」と藤間勘十郎按舞の「祭ばやし」、川口松太郎の「浮名の渡り鳥」という東宝歌舞伎的な色あい。お客さんも若い層が多く、雷蔵の立ちまわりや、淡島とのラブ・シーンにキャアキャアと歓声をあげる。

 雷蔵は『安珍と清姫』の撮影を終えたばかりで、頭はクリクリ坊主。楽屋ではその頭に冷やしタオルをのせたままで、立ちまわりの手順をメモと首っぴきでおぼえたり、セリフを暗記しなおしたり、久しぶりにあう父親の寿海とゆっくり話をしているひまもないが

 「気楽な芝居だし、いろいろな人と顔を合わせられて面白い」とご満悦。

○・・・寿海は「七年前に東京・明治座で一緒に出て以来です。今度は歌舞伎とは違うもので、ちょっと面くらっているのですが、雷蔵が私と一緒でなければ出ないというので・・・。淡島さんだって、英(太郎)さん以外はほとんど初対面ですよ」という。

 雷蔵に"もうこれで舞台に出ないときいたが"ときくと、「そうはっきり考えてはいませんが、映画に入ったからには、もっと立派なものをたくさんつくりたい」という。寿海も「しかし、近いうちに歌舞伎で雷蔵と共演したいと思っているんですよ」とそればかりが楽しみらしい。

○・・・淡島千景は顔色が悪く、やせてちょっといたいたしい。「夏場はいつも身体が悪くて申しわけないのですが、渡り鳥のほうの相手役を霧立さんに代ってもらいました」と残念そう。そのかわり新派から他流試合?にきた霧立、桜、安部の三人はいつもかたまって、キャアキャア騒ぎながら元気いっぱい新派と違う雰囲気を十分楽しんでいた。

 劇場側も上々の景気にホクホクで、早くも三日間の日延べ(二十八日)をするやら、最近低調気味の気分をこの公演で吹きとばすと鼻息があらい。ちょっとした雷蔵ブームといったところだ。(日スポ東京 08/02/60)