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市川雷蔵と大映時代劇

 市川雷蔵。“銀幕の貴公子”と呼ばれる不世出の時代劇スター。彼が37歳で世を去ったのは、1969年7月17日。今年は没後30年目の年に当たる。この間、市川雷蔵の人気は、年月とともに衰微に向かっていくどころか、むしろ日増しに高まる一方で、世代を越えて雷蔵ファンは広がりつつある。

 何が熱烈人気の秘密なのか、気品のある美貌と夭折の運命ゆえか。それが大きな要因であろうが、時代劇の魅力ということを考えずにいられない。永遠のスターとしてのその輝きは、独自の個性と時代劇の力の重なりによると思われるのである。市川雷蔵は現代劇でも強烈な輝きを見せたが、そこにも時代劇で磨いた力量が発揮されている。ならば、雷蔵人気の秘密は、映画の面白さという一点に集約されているといってよかろう。市川雷蔵は生涯、テレビには1本も出演しなかった。

 没後30年の今年、京都映画祭では、市川雷蔵の主演作品を特集して、この人気スターの魅力にあらためてふれる機会を世に差し出す。必ずやそれは、時代劇の面白さの再発見につながり、新たなる雷蔵ファンを生むことになるだろう。雷蔵の“生まれ故郷”大映によっても、ほぼ同時期、大々的な市川雷蔵映画祭が東京をはじめ全国各地で催され、京都映画祭はそれに連動する。

 市川雷蔵の出た158本の映画は、ただ1本を例外として、すべて大映作品である。その意味からして、永遠のスター・市川雷蔵の魅力は、大映京都撮影所という映画づくりの拠点を抜きに考えることはできない。そこで、京都映画祭では、大映京都撮影所の生み出した時代劇をあわせて特集する。いまも“幻の特撮時代劇”として多くのファンを持つ『大魔神』シリーズも、オールスターの華やかな顔ぶれによる『忠臣蔵』も、絢爛豪華のスペクタクル史劇『釈迦』も、大映京都撮影所のすばらしさを鮮明に見せるだろう。

 市川雷蔵特集では、雷蔵と共演した女優の方々をお招きして、雷蔵の思い出を語っていただく。人気スターの知られざる一面が浮き彫りになるにちがいない。さらに『大魔神』ゆかりの人々による座談会を催して、ユニークな特撮時代劇をめぐる製作秘話をうかがい、興趣を一段と盛り上げる。

 今回の特集では、京都映画祭は大映から上映フィルムを借り出すとともに、さまざまな形のニュー・プリント作成に協力した。市川雷蔵唯一の他社作品『歌ごよみ・お夏清十郎』は、美空ひばりプロダクションと国立フィルムセンターの尽力で蘇り、『次男坊鴉』と『柳生連也斎・秘伝月影抄』は16ミリ原版から新しいフィルムが起こされる。このうち『次男坊鴉』は世界的キャメラマン・宮川一夫と市川雷蔵の出会いの作品であり、『ある殺し屋』とともに、京都の生んだこの偉大な映画人へのオマージュとして上映される。

 特集「市川雷蔵と大映時代劇」は、あらゆる意味で映画都市・京都の大いなる可能性の発見をめざしている。

(山根貞男 映画祭公式パンフレットより)