ついこの間、大文字の火を焚いて、ゆく夏を惜しんだ京都も、日中はまだまだ盆地いっぱいに残暑がむれかえっているが、日が落ちるとさすがに涼風がたって、残りすくない夏をうたう蝉しぐれが、いきかえったように木立ちをふるわせる。

 八月二十九日生れの市川雷蔵は、閑静な鳴滝の自宅に橋幸夫、姿美千子を招いて三十回目の誕生日を祝った。うち水のしずくが光る緑の庭に、日ぐらしの声が涼しさをさそうようだった・・・。

 「とうとう20代と訣別や、うれしいんやら悲しいんやら、なんか妙な気分やな・・・」
と満30歳になったばかりの雷蔵は、撮影所から扮装のまま駈けつけた姿美千子や橋幸夫を笑わせていた。

週刊平凡61年9月6日号より