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 緞帳が上る。舞台一面桜と、菜の花に彩られた美しい一幅の絵。冴えた清元(寿美太夫)の音に連れて、花道の揚げ幕がサット開き、雷蔵さんの美しい「保名」が本舞台へ。黒と桃色の着物に、長い袴の裾を引き、手にした赤の小袖に紫の鉢巻が一段とはえる。

 「恋よ恋、我中空になすな恋」と踊る雷蔵さんに場内はただうっとり。

 「何じゃ、恋人がそこにいた。どれどれェ、又うそいうか・・・」とセリフになると、さすが歌舞伎できたえただけあってその声のさえた事。

 すっかり舞台に引きずりこまれてしまっていると無情にもスルスルと幕が下りる。再び緞帳が上ってサインボールを投げる雷蔵さんの姿に場内からテープが乱れ飛ぶ。そして名残りを惜しみつつ、秋の集いは終了しました。

 雷蔵さんは、その日フジテレビのスター千一夜(七日放送)に出演のため、スタジオにかけつけ、そのお仕事を終って、十時東京発彗星号で、会員さん多数のお見送りの中を一路京都へお帰りになりました。

 京都では『薄桜記』『浮かれ三度笠』と二本のお仕事が待っており、ほんとうに大変ですね。どうぞお元気でおつかれ様でした。

早稲田大学演劇博物館蔵 市川雷蔵着用「保名」衣裳(寄贈:太田雅子)