【大阪発】大映京都ではゴールデン・ウィーク作品『大江山酒天童子』(田中徳三監督)を長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎、本郷功次郎、中村鴈治郎、根上淳、山本富士子、中村玉緒、金田一敦子、左幸子らの多彩なキャストで七日、クランク・インした。

 

 これは平安時代末期の関白藤原道長(小沢栄太郎)に、愛妻渚の前(山本)を強奪された近衛の武士橘到忠(長谷川)が、茨木童子(左)、鬼童丸(千葉敏郎)、袴垂保輔(田崎潤)ら藤原の専横に反抗する新勢力を結集して、自ら酒天童子と名乗って、大江山に立てこもる。部下は都に出ては藤原一門をおびやかすが、関白は源頼光(雷蔵)に治安の強化をさせるとともに、大江山に討ち入って、酒天童子の討伐を命ずる。

 頼光は渡辺綱(勝)、坂田金時(本郷)、卜部季武(林成年)、碓井貞光(島田竜三)らの四天王をつれ、山伏に化けて大江山に潜入するという、日本三大伝説の一つである“大江山の鬼退治”を素材にした、川口松太郎の原作を八尋不二が脚色したものだが、鬼だといわれている酒天童子を、白面の革命児に仕立てたり、妖術使いの茨木童子を、女性にしているのは伝説と違うこの映画のミソ。

 この日の撮影は都をすてて、流浪していた橘到忠が茨木童子(左幸子)の配下の鬼童丸、袴垂保輔、虎熊次郎らと遭遇して、一戦を交えた末、その腕を見込まれて頭に推挙され、茨木童子の根城である洞穴に連れられて茨木童子と会うくだりだ。鬼童丸、袴垂保輔、虎熊次郎らはいかにも野盗らしくまゆを逆立て、眼光けいけいとしているが、橘到忠は都の近衛の武士そのままの白面ぶりで、この映画にふさわしい長谷川ならではの酒天童子。

 メガホンを取る田中監督は新人のせいか、長谷川をはじめとするベテランを相手にいささか興奮気味で、「テンポをもたせて、文句なく面白い娯楽調にしたい。いうならば大人の紙芝居にしたい」ともらしていたが、出演者が大物だけにたすけられることもあるが、逆に演出しにくい面もあるようだ。日ごろから“家族ぐるみ、安心して見られる作品を”という長谷川に、「これこそ、それにあてはまるもの?」と質問すると、「会社の命令でやるわけですが、ちょっと中途半端な気がする。大人のおとぎ話にしては、酒天童子の反抗の裏付けが寂しいし、西部劇のように大荒れするにしては立ちまわりが少なすぎる。そのどちらかに徹底しなければ、面白くないでしょう」と答えて、せっかくの大作だからうんと面白くしなければという意志を、言外にほのめかしていた。

 

(日スポ・東京版 03/08/60)

Calendar Top