静岡県の御殿場といえば富士山麓の大演習地と、富士山登山口の町で知られたところ。昨今は映画のロケ地としてもさまざまに利用されているが、ついこのほど大映京都がこの早春の御殿場に市川雷蔵主演『若き日の信長』(監督森一生)のロケに出かけた。

 期せずしていっしょになった二つのロケのスターたち、市川雷蔵を囲んで右から
岸正子、三宅川和子、市川和子、叶順子、浜田ゆう子、田中三津子

 

 
 東海道線の沼津駅からディーゼル車で約三十分、御殿場は小さいながらも活気のある町だ。市街を一歩出るともうそこは見渡すかぎりの原野で、そうした地の利のため最近はアチコチからよく“ロケに行きますから、よろしく”と声がかかる。昨年の黒澤明監督『隠し砦の三悪人』もここで撮ったし、松竹京都の『二等兵物語・死んだら神様の巻』の戦斗シーンもやはりここ。だから、ロケ隊の宿舎になる旅館も結構カツドウ屋さんの扱いになれている。小さなコーヒー店にも“黒澤一家”が寄せ書きした色紙が飾れれているといった具合。

 さて「信長」ロケ隊が到着した五日は、ちょうど大映東京の『女の教室』のロケ隊が撮影を終って引き払うという日、期せずして東西の大映スタッフ、キャストがすれ違ったが『女の教室』のメガホンを取っているのが渡辺邦男監督で、雷蔵とはついせんだっての『蛇姫様』で顔を合せたばかりとあって、さっそく思い出話ににぎやかな花が咲く。と、そこへ“コンニチハ”“おじゃましマース”と現われたのは叶順子、市川和子、岸正子など『女の教室』に出演の若手女優の面々、彼女らのおしゃべりで部屋の中はまるで火事場のような大騒ぎ。それでも雷蔵すこしもあわてず、サッパリした表情で“キミたち、もう食事はすんだの?”と彼らしい配慮を見せる。