十九日クランク開始した大映京都の『破戒』には、このほど日活と本数契約に切りかえた長門裕之が、初の他社出演。フタあけのシーンは、人目をしのんで部落に父親の死を見に行った瀬川丑松(雷蔵)が、"鷹匠館"の一室でぐったりしているところへ、同僚の土屋銀之助(長門)が立ち寄り、声をかけるところ。

 雷蔵はドロのついた黒のツメエリ、長門はカスリの着物にハカマというさっぱりしたいでたちで、憔悴した表情の雷蔵をなぐさめるわけだが、軽いシーンにもかかわらず、こり性の市川監督が宮川一夫カメラマンと慎重な打ち合わせを重ね、なかなか本番にならない。市川監督は流感にやられてマスクをかけての演出だ。

 長門は初顔合わせの市川監督から、「むだな演技をなくしてやってくれ」といわれ、「『豚と軍艦』は長門裕之自身が前面に出すぎていて失敗だ」といわれたとかで、市川監督の"化けろ"のことばに懸命の演技。市川監督は雷蔵にジェームス・ディーン的な演技を要求し、長門にはアンソニー・パーキンス的なものを希望し、これをかみ合わせようという意図。

 雷蔵も長門もクランク早々で手さぐり状態、おたがいに相手の呼吸と市川監督の気持ちを推しはかりながら演技をしているかっこうだ。(日スポ・東京 02/20/62)