去月二十一日に行われた大映第三十一回株主総会の結果、新しく長谷川一夫が重役に就任したが、京都撮影所俳優部主催による祝賀パーティーが二十九日夜、小雨けむる京都ホテルで行われた。

 “われわれ演技者の中から出た重役さんのために・・・”というので、黒川弥太郎、市川雷蔵、勝新太郎、林成年らが発起人となり、山本富士子を始め大映京都専属の俳優、監督、日ごろスターの陰になって活躍している裏方の人々など約二百人が参加した。

 いつもは外人客が静かに憩う京都ホテルも、この日ばかりは美しく着飾った女優さんや、スマートな紳士姿の監督、男優さんらで目をうばわれるばかりのにぎにぎしさ。ブラウンの背広にチョウネクタイというしょうしゃなスタイルの長谷川新重役は酒井所長や、田坂、加戸両監督、後輩スター連中に囲まれて終始ニコニコ、うれしいようなテレくさいようなという表情だった。

 豪華な菊の花が香る一階大食堂の会場に一同が集まると、阿井美千子の司会でパーティーの幕はひらかれ、酒井所長のあいさつに続いて発起人を代表して黒川弥太郎、市川雷蔵、勝新太郎らがそれぞれマイクの前に立ち、「三十年間、日本全国の女性を魅了してきた長谷川さんの眼で、こんどはわれわれのためにも、撮影所の中ににらみを効かしてほしいと」とくだけた言葉でお祝を述べ、会場の爆笑を誘えば、拍手にむかえられた新重役は、「皆がこうしてほしいと思うことの十分の一でも、私の力で実現出来れば幸いです」と言葉すくなに喜びの言葉を述べ終って、一同新重役のために乾杯。家庭的なふんいきのうちにパーティーは進められていったが、その間にも森繁久彌、京マチ子、浪花千栄子、後援会などからひっきりなしに祝電が舞い込み、白髪頭の志村喬が突然姿をみせたり、雷蔵、勝新太郎、梅若正二、堺駿二らが得意のジャズや歌謡曲を披露したりして長谷川重役を喜ばせ、九時過ぎパーティーの幕を閉じた。

 長谷川一夫は新重役としての抱負を次のように語った。

 「もちろん、重役になったからといって演技の方が留守になるというのでは困ると思いますが、私の場合、重役といっても演技者からなった重役で、これまで会社側に対する俳優としての希望や、注文がいろいろとあったわけですが、それを皆にかわって私の力で出来得る限り改善したいと思っています。とにかく名前のだけの重役にならないよう努力します」

(デイリースポーツ大阪 10/01/57)

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