関西旅行記@

 去る十月二十三日名古屋“中部雷蔵会”の発会式終了後、雷蔵さんと同じ列車で京都を訪れた。車中雷蔵さんより面白い話を聞き、会誌に掲載したいと思い、奮発して特二でと思ったのに生憎売切れてしまいやむをえず三等車に乗込んでしまった。二等と三等では話を聞くどころか顔さえ見えない始末、車中は混雑をきわめ身動きもできない有様、車中訪問など思いもよらない。残念ながら記事にはならなかった。

 午後十時五分京都駅着、十時を過ぎたとはいえ秋の夜の京都は宵の口である。古い都であるだけに東京にはない落ち着きのある都だ。明日のスケジュールを雷蔵さんと打ち合せ別れを告げ、宿に向う。タクシーの人となって始めて自分の体になった感じだ。

 翌朝目を覚ますと晴天、比叡の連山がくっきりと姿を現しやっと京都に居るという感じがした。(名古屋でも京都駅に着いてもまだ東京に居る様な気がしていたので・・・)予定は撮影所訪問であるが、都合を聞くためにお宅に電話してみる。撮影所では午前中はお休みで、午後より全員集合で、永田社長の訓話が有り、撮影中止との返事にやむをえず大阪見物と決定。千日前をブラブラしていると、歌舞伎座の前に出てしまった。思いがけなく寿海さんのお名前を発見してお尋ねする。お逢いして感じたことは名優でありながら厳しい感じは少しもなく、優しさあふれ人情味豊かな方である。訪問時間は十分位であったが、発会式のお礼をおっしゃられたり、よろしくお願いしますとのお言葉を戴き恐縮していしまい、今迄微力であったと大いに恥じ入ってしまった。お暇する時に「京都は寒いの風邪を引かない様にして下さい」と注意して下さる。午後十時三十分京都に舞い戻り、今日一日の出来事を話し合い、明日のスケジュールを決めて、床につく。