「みちのくの訪れ」を尋ねて

 後援会より雷蔵さんが東北の都仙台を訪れて実演をなさるとの報せをいただいて、飛立つ思いで、三人が夜行で仙台に出かけました。丁度十一月の二日、三日の土曜日曜だったので務めを持つ身には好都合だった。

 青森から急行で七時間、夜の明けそめたばかりの仙台に到着、プリンス以来の雷蔵さんにお目にかかれるうれしさに、胸おどらせながら宿に着いた。今度の来仙は、大映直営館仙都の改築落成記念の御挨拶に見えられるのだそうで、仙台には縁の深い若尾文子さんや、近藤美恵子さん、川上康子さん等と御一緒でした。

 十二時・三時・七時の一日三回の実演で、十二時迄が待ち遠しくて、青木ホテルに電話で森本さんに御都合をおうかがいしますと、急に予定になかったNHKの録音があるため、楽屋入り前には時間がないから(松竹の映画館も改装落成で、佐田さんと岡田さんが御挨拶に見えてらしたので、その方々と御一緒に対談の録音をなさった様です)、楽屋入りの後で時間を見つけて下さるとのお話で、胸をドキドキさせながら、仙都の楽屋口で待つ事久し(時間にすれば大した事はなかったのですが・・・)。赤い車が見えて、あれかなと思っていると、若尾さん、近藤さん、川上さん達で、車が止った途端にキャーと云う奇声と人垣にとりまかれて、身動きも出来ない状態・・・この調子だと大変だわと思う間もなく、黒い車が仙都食堂口に止り、車から一人がぱっととび出して道をひらき、続いて降りた雷蔵さんは敵弾に身をかわす様にして人垣をくぐり抜けて仙都に入り、後から一人雷蔵さんをかばう様にして続く、一瞬の事ながら呆然として見送る三人。

かしましき 人の群れみて三人とも あほうの如く 突っ立ちていぬ

 我に返ってふとみると森本さんが見えたので、群がる人垣をかき分けて楽屋口へ通る袖へ入れていただいた。何ともたとえ様のない気持だった。森本さんが、「時間がないので申し訳ないが、舞台に出るのにここを通りますから、一寸だけ会うことにして下さい」とおっしゃると、このギリギリの予定の中で、お取計らいいただいた御好意に胸があつくなった。雪国の者は、人情にとけやすいので・・・(一寸やそっとではとけそうもない目方だなんておしゃるのは誰方ですか・・・)。

 森本さんのお話ですと、ともかく忙しくて、仙台にお出かけの日も午後三時迄撮影があって、五時の飛行機に乗ったので雷蔵さんも森本さんも床屋さんへ行けなかったのだそうです。日に三度の実演、その度のかしましさに森本さんも本当にお疲れの様子が見えて、お気の毒だった。