ワイズ出版(11/99)

 

 六月七日(土)

 旅行に出てからはじめての雨である。大映京都撮影所で市川崑監督の撮っている『炎上』(「金閣寺」の映画化)見学のため、わざわざ東京から来てくれた藤井プロデューサーの案内で、撮影所へゆく。所長に挨拶してから、京阪神の二十数人の記者による記者会見に引張りだされたのにはおどろいた。

 セットは柏木の下宿の場である。仲代達矢君の柏木が、市川雷蔵君の扮する主人公を難詰する場面。頭を五分刈にした雷蔵君は、私が前から主張していたとおり、映画界を見渡して、この人以上の適り役はない。

 一旦ホテルへかえり、夜、瓢亭で撮影所長の招宴。

新潮 昭和三十三年八月号〈日 記 (五)〉抜粋 (三島由紀夫映画論集成)

(週刊現代増刊 三島由紀夫緊急特集号 12/12/70)