「十年選手の道」 -スター千一夜-を見て

 確か二年程前、フジテレビのスター千一夜に保名の扮装で、雷蔵さんが出たのを記憶している。その後、スター千一夜で彼の顔を見ていない。時間的に云って、もう一度出てもらいたいという気持をファンならば誰しもいだくであろう。私もその一人である。ためしに、三月中旬スポンサーの旭化成に市川雷蔵をリクエストしてみた。それが運好く採用されたとみえ、四月十二日のスター千一夜に雷蔵さんが登場した。当夜、雷蔵ファン全員はテレビに向い、雷蔵君と芥川さんの話に耳を傾けたと事と思う。彼の話を要約すると

− 私はここ暫く、軟派の役を続けた。ファンからあまり度が過ぎはしないかと言われたが、どうにもその様に思う。私もそろそろ十年選手になるが、若い内はどんな役でもやってみたい、そして市川雷蔵という俳優の基盤を作り、将来もそれで押していきたい。

 大映で今度七十ミリ超大作『釈迦』をやるが、製作費は五億円かかると云う。従来各映画会社では、エキストラ千人動員して三千人と宣伝した方がスケールに相応するように思う。釈迦とキリストの生涯は似た点がある。ユダに対するダイバの出現は物語の興味をそそぐ、七十ミリの大作だけに、期待をかけている。

 日本の映画界は週に一度変るので、スターに暇がなく、会社の政策に巻き込まれてしまうが、そうなってはいけないと思う。近頃の新人スターは、自分の役柄を把握していないようだ。演じている役が、果たして適役かどうかまだ疑問である。もっと役柄についての研究が必要だ。時代劇、現代劇の両極端をやった時、どちらがやりよいかと云えば、中間的なものより両極端の方が私はやりやすい。

 スポーツが好きだ(特に野球)。それは映画と云うものは作られた世界であるが、スポーツは生の正解であり、映画の仕事をしていると逆作用と云うか、生のスポーツに魅力を感じる。映画でもドキュメンタリーやニュースは、生の実感があるので私はその方が好きである。現代劇では、ドキュメンタリー式も可能だが、時代劇は一寸無理である。時代劇には時代劇の夢ファンタジーがあるから・・・−

とまあこんなところであった。

 雷蔵さんの意欲は、十年選手の道を今後如何に開拓するかに燃えている。『炎上』『新・平家物語』『ぼんち』の代表作に加えて、『忠直卿行状記』『好色一代男』という希望作を達成した今日、彼の進むべき道は、十年選手の貫禄に恥じぬ作品と役柄を得ることである。

 スターと云うより、プロデューサー的見解を身につけた、インテリ青年の前途をファンは大いに期待する。しかし、具体的にどういう作品を望むか、今年は舞台(実演)の経験をつむ意志があるかを、付言してもらえばよいと思ったが、目下作品や適役が見当らないとすれば、我々ファンは彼の為に、今こそ助言すべきであると、私は思う。

 『スター千一夜』(スターせんいちや)は、フジテレビ系列で、1959年3月1日(フジテレビ開局当日) - 1981年9月25日に放送されたトーク番組。放送回数は6417回。通称は「スタ千」。(Wekipediaより)

(よ志哉23号 61年5月31日発行より)