昨年十一月の九州場所で初優勝して、大関に昇進した大鵬幸喜の大関披露は、新春六日、東京赤坂のホテル・ニュージャパンで催された。

 当代随一の人気男だけに、会場は千人あまりの関係者でうづめつくされたが、ただひとり、豪華な化粧まわしのかげに身をかくし、白いハンケチで顔をおおう老婆の姿があって、人目をひいた。大関の母・納谷キヨさん(60)である。

 定刻五時に披露がおわると、大鵬は母をいだくように夕闇せまるネオン街に消えていった。心温まる、平凡な母子の姿だった━。

 

 大鵬の故郷、北海道釧路郡弟子屈町は日本でも有名な雪深いところだ。大鵬は冬になると母を想う━元気に暮らしているだろうか・・・毎月二十日の給料日には、着物を買ってくれとお金をおくる。電気せんたく機やコタツもおくったが、つましくて気丈な母のことだから、大事にしまってあるのではないだろうか━その母が深い雪をわけて、兄の幸治さんとともにやってきた。大好物の荒巻さけとすじこをお土産に・・・。

 六日の披露で、大鵬は後援会の有力者や角界の実力者から数々の激励をうけたが、なにより母と兄に晴れ姿をみてもらったことが一番うれしかったに違いない。大鵬には横綱への栄誉とともに、一日も早く母を東京によぶことが大切な夢のひとつになっている。

 「わたしは弟子屈に住む。幸喜の世話にはならないよ」という母のために、弟子屈にも新居をぜひ今年中に建てたいと大鵬はいっていた。

 芸能人とも多数親交のある大鵬だが、大映の市川雷蔵とは義兄弟といっていいほどの間柄。ふたりは昨年二月大阪場所前にはじめて盃を交わした、その後も変らぬ友情をあたためている。