「週刊朝日」連載、吉川英治原作の『新・平家物語』は、目下溝口健二監督により、総天然色映画として大映京都撮影所で撮影中だが、同映画の原作者吉川英治氏は此の程夫人同伴で杉本健吉画伯、扇谷週刊朝日編集長、大映松山常務らと西下、十一日朝より京都撮影所を訪れ、市川雷蔵、木暮実千代、林成年らの歓迎をうけ、酒井所長の案内で、折から第五ステージで撮影中の“院の御所謁見所”のセットを見学、溝口監督、市川雷蔵、大矢市次郎、木暮実千代らと大映ニュースのキャメラに収まった。(これは『新・平家物語』の天然色予告篇の一部として近く公開される)

 吉川英治氏は、雷蔵の清盛が大気に入りで「清盛の配役には、みんな随分苦労したが、雷蔵君は何よりも純真な感じで、若さにあふれているのが、青年清盛にピッタリだね。清盛って大変悪入道みたいに思われているが、ホントーはね、君のような良い青年なんだ。あの平安末期、及び藤原時代のあと、どうにも息のつけない、希望のもてない、くされかけてる時代、そういう時代に清盛は生れたのです。そして自分の家庭、周囲を見まわしてもね、自分の本当のお父さんさえ誰やら判らず、貧乏の中に苦しんでいるが - どんな悪い世の中にでもね、何か希望をさがしてね、つかんで生きようという清盛のような青年は、現代でも必要だと思うんですよ」と熱心に見学。

 終って午後四時より市川雷蔵、林成年と共に京都市内の『新・平家物語』史蹟めぐりに出発、多忙な一日を了えた。

可美なり会誌第三号より