さて北海道に着いたのは夜だったので、千歳飛行場から札幌へ向う途中何も見えず、第一夜はこれと云う印象もなく過してしまいました。
次の朝、同行の永田社長と、その日行われる大毎 -
南海戦を見るべく夕張へ向う途中、はじめて目の前に拡がる、石狩平野の雄大な風景に接し、聞きしにまさる大自然を目のあたりに見た感激は、この夏の一番の収穫だったと云えます。澄み切った青空の美しさは、内地で見るそれとは全然異質のものです。
私はここで久し振りに入道雲を見て、最近では都会で見る事のなくなったこの入道雲に、少年の頃に味わった夏らしい夏を感じたのでした。聞く所によると、北海道では旧盆をすぎると涼しくなるのが、今年は一向に暑さがおとろえないという事でしたが、それでも私には結構涼しく感じられました。
第一汗をかかない事と、風がすでにさわやかでした。夕張は海抜三百メートルの丘陵地にある標高の高い町ですが、夕張の球場は更に高く海抜五百メートルの所にあると聞いて、おそらく日本一高い所にある球場だろうと珍しく感じました。試合は大接戦の末大毎の逆転勝ちに終り、我々は、はるばる応援に来た甲斐があったわけです。
この試合中に感じたことは、夕張の人達と云えば炭鉱町だけに、荒々しい空気を予想していたのに反し、野球の応援振りはまことにフェアな事でした。
この春、ウィーン少年合唱団が公演した時も、実に上品な鑑賞態度で彼等を迎え送ったという事で、それだから、この野球見物のマナーも立派なのだとうなずけました。それでもやはり炭鉱町らしくて、面白いと感じた事もありました。何しろ北海道のはてで、今度の様な首位を賭けるという様なビッグゲームはめったに来るものではないので、前夜から球場へ泊り込んで、頑張っていたファンも少なくなかったのですが、天幕を張って徹夜で麻雀をするのに、めいめいが炭鉱で使うカンテラを頭につけてやったという事を聞いて、さすが粋なものだと思わず微笑まされました。 |