大映時代劇陣で、長谷川一夫の後継者と目される市川雷蔵が、長谷川の衣鉢をついで浅野内匠頭を演ずることは当然の成行ながら、その映画入り以来比較的日の浅いのにも拘らず、これまで溝口、衣笠、吉村といった名匠巨匠の手にかかるたびに、必ずめざましい成長振りを示しているこの天分に恵まれた青年スターが、ここにまた渡辺邦男という異才の手により、如何なる新しい面を引き出されるか、大きな楽しみが持てるといえよう。

 もう一人の、第二の長谷川一夫ともいうべき鶴田浩二が、これまた長谷川がかっての『忠臣蔵』で演じた例の絵図面取りで有名な岡野金右衛門になることも興味深い。この義士外伝的なエピソードでは、その恋人お鈴の若尾文子とのコンビで、彼の持味の甘さを充分に生かした『忠臣蔵』中唯一ともいうべきラブシーンを受け持ち、また全篇を通じては、赤穂浪士中の先鋭分子としての、めざましい活躍をする場を与えられ、好漢鶴田の面目を存分に、発揮するだろう。

 この鶴田の岡野に対する若尾文子のお鈴は、吉良家出入の棟梁の娘として、彼女得意の境地の庶民的な悲恋の女性の役割を演ずる。昨年、皇妹和の宮になって、全く手も足も出なかったと自ら語る彼女だが、生涯の情熱を束の間の恋に燃やし尽して悔いぬシンの強い可憐の町娘役としては、時代劇現代劇を問わず若尾文子の右に出る者を見出すのはむつかしい。

 いわゆる泣かせ場の多い『忠臣蔵』のいろいろのエピソードの中に、明るい雰囲気を持ち込むパートを受け持つのが、勝新太郎の赤垣源蔵である。赤垣が赤埴であったなどと、実説を云々することは、この場合必要ではない。「徳利の別れ」で有名なこの巷談的人物に、よく人間なリリーフを施して、これまた二枚目半的な若松和子の下女お杉とのやりとりのうちにかもし出す笑いと交錯する涙にも、爽快な後味を残す意味に於て、近来グングン伸ばして来たところの、あの独特の軽妙な明るい風格が大いに期待されると思う。

 オールスターと銘打つ以上、『忠臣蔵』の配役にかけられる興味は、ある意味では、菅原謙二、根上淳らを初めとした現代劇スターの時代劇出演ということに、相当の比重がかけられているともいえる。 

 菅原謙二の脇坂淡路守は「赤穂城明渡し」で大石の衷情をそのまま幕府に伝えようとし、根上淳の老中土屋相模守は刃傷後の処置その他で正論を吐き、共に『氷壁』『母』の作品に重要な役を演じている最中であっただけに、それぞれの『忠臣蔵』に於ける出場は極端に制限されるのうらみはあったが、それだけに却って強烈な印象を与える結果となるだろう。

 だが、全篇を通じての最も儲け役は、黒川弥太郎の目付多門伝八郎に止めをさす。当時の世論を人格化したような極端な浅野派贔屓のこの幕府の役人は、終始一貫、元禄快挙の蔭の人として、或は颯爽と、或は痛快に行動するのだが、最近比較的配役に恵まれなかった黒川弥太郎が、年来の知己渡辺監督と組んで、改めてその真価を問う好機を得たわけである。