『忠臣蔵』の総配役のまだ半数をも述べ切らないうちに、与えられた紙数がすでに終りに近づいたようだ。だが、役として、人として、以上述べきった人たちと甲乙をつけ難い人たちがまだ多分に残っていることは、如何にこの配役が大規模であり、大映が豊富な持駒を揃えているかの証左となるだろう。

 例えば、伊達三郎の杉野十平次は、舟木洋一の神崎与五郎と同じ比重で活躍するし、新人和泉千太郎の菅野三平は、冒頭の早駕に於ける鮮烈な印象が残るにちがいない。

 最後に特筆したいことは、かって主演スターとしての華々しい活躍を続け、取る年とともに傍へまわるようになった人たち、すなわちスター時代を卒業して、文字通りの俳優となった人たちと、最初から傍役として地道な修業を積んできた人たちだが、いずれも二十年三十年、或は四十年以上の芸道生活の中で、演技と共に生きて来た熟練者だけに、その活躍の場さえ与えられれば、いつ何時その集積した演技力を爆発させるか判らない、恐るべき潜在能力を持っているのである。

 その前者に属する人びととして、見明凡太郎(大工政五郎)、杉山昌三九(不破数右衛門)、伊沢一郎(前原伊助)、南条新太郎(伊達左京亮)、春本富士夫(田村右京太夫)、志摩靖彦(青木久之進)、光岡竜三郎(付人須藤与一右衛門)、尾上栄五郎(付人新見弥一郎)、竜崎一郎(塩山伊佐衛門)、南部彰三(安井彦右衛門)、荒木忍(堀部弥兵衛)、葛木香一(原惣右衛門)、羅門光三郎(付人鳥井理右衛門)、朝雲照代(塩山の妻まさ)、橘公子(仲居お八重)、滝花久子(矢頭右衛門七の母)、などが数えられ、後者には、上田寛(瓦版売り)、寺島雄作(松原多仲)、沢村宗之助(荘田下総守)、天野一郎(そばや万吉)、清水元(吉田忠左衛門)、東之助(本陣の主人清兵衛)、大美輝子(仲居お梅)が顔を揃え、時と場合によっては助演演技賞を虎視眈々と狙っていることも、付け加えておきたい。なおこの稿を閉じるに当って以上の他にもまだ有名無名の多士済々、百十数名に上る大配役を以て臨む今回の大映の『忠臣蔵』の全貌を述べ尽さなかった事に、多分の遺憾を表したいと思う。