大映のオールスター時代劇『大菩薩峠』(監督 三隅研次)のクランクは目下快調にすすんでいる。市川雷蔵の机竜之助、山本富士子のお松、本郷功次郎の宇津木兵馬をはじめ、豪華スタッフを一堂に集めた久しぶりの文芸巨篇だが、なにぶんにも三十年前に大河内伝次郎・入江たか子のコンビで映画化したのをはじめ、戦後は片岡千恵蔵・長谷川裕見子と。もっともむずかしい役所だけに、雷蔵もいつになく真剣な表情だ。

 「ニヒルな人生観の中に、近代性をもちこむことが出来たら成功だと思いますが・・・」と語る雷蔵のそばで、彼の弟分にあたる本郷功次郎が 「ぼくの現代劇はどうも今一歩というところでヒットしない。今年はこの宇津木兵馬が勝負です。先輩よろしくお願いします」と低姿勢。

 山本富士子は『白子屋駒子』につづいての時代劇出演で、すっかり手馴れた格好だが、清純な娘役なのでゴキゲン。

 撮影の合い間に刀をふりまわしてフザケながら、気のあった連中だけに軽口をたたくなど和やかな風景だった。

週刊実話60年10月17日号