御嶽山奉納試合に、机龍之助の妖剣音無しの構えに血を吐いて惨死した甲源一刀流宇津木文之丞の弟兵馬は、兄嫁を犯し、兄を殺した宿敵竜之助を討たんとして、龍之助の父弾正にすすめられて、江戸の島田道場に剣を学びます。

 剣聖島田虎之助(島田正吾)は剣を学ぶには、まず心を学べと教える厳しい師、兵馬は片柳兵馬と名を変えて精進をつづけ、龍之助もまた、吉田龍太郎と名乗って島田道場を訪れます。

 互いにその宿命を知らぬ龍之助(市川雷蔵)と兵馬(本郷功次郎)は、激しく対立し、島田道場に殺気はみなぎり、妖剣音無しの構えが兵馬の中段の構えを妖しく誘って・・・あの御嶽山での龍之助と文之丞の試合を彷彿とさせる鬼気迫る一瞬。島田虎之助の右手がさっとあがり、「それまで」と、だが、ありありと龍之助の面上には不満の色が消えず、兵馬もまた、それとは知らず虎之助をはさんで妖しい敵意がみなぎります。

 

大映グラフNo.5「錦秋臨時増大号 特集・大菩薩峠」より