○・・・京都から車で三時間、岩石のそそり立つところあり、砂浜あり、松林ありで背景が変化にとんでいる福井県高浜は、京都の撮影所にとっては絶好のロケ地。大映『大菩薩峠・完結篇』(森一生監督)でも机竜之助の市川雷蔵と宇津木兵馬の本郷功次郎、二人の宿命の対決シーンを高浜で撮影した。

 行くあてとてない竜之助が、大菩薩に招き寄せられるように伊勢路から、東海道を東へ。宿縁をはらそうとする宇津木との対決が、足場の悪い岩場を選んで段どりされる。いまは盲目にふんするだけに、雷蔵は目をつぶったまま。カメラがやっと落ちついてテストが始まったと思うと、こんどは目をつぶった雷蔵が激しい立ち合いに足を踏みはずしそうになるので、スタッフもハラハラ。

○・・・晴天に恵まれたただけに、折りからのハイキング・シーズンでつめかけた見物人が数百人、時代劇の中に色とりどりのスカーフやブラウス姿が入ってはと、見物人の整理にまた一汗。それでもロケ・セットの船着場に、あらかじめ作られた百石船など、物珍しい風景に見物人も大喜び。      

 朝七時にはじまって、夜までに十二シーンの撮影という強行軍だったが、森監督は「市川君と本郷君は兄弟のようなもの。演技論をたたかわせたり、緊張をほぐし合ったりで、呼吸はピッタリだから」と二人に立ち合いもまかせたような表情でごきげんだった。

(日スポ・東京版 05/08/61)