今秋『大菩薩峠』を公開した大映は、引き続き正月公開の話題作として第二部『大菩薩峠・竜神の巻』(監督三隅研次)の撮影を開始している。出演スターは前作同様、市川雷蔵、山本富士子、本郷功次郎、中村玉緒らの顔ぶれで三部作への激しい意欲をみなぎらせながら快調なクランクが続けられている。

 原作の「大菩薩峠」は、大正二年九月、当時のみやこ新聞に連載された中里介山の不朽の名作だが、その構想の雄大さとスケールの大きさではわが国、長編国民文学の傑作として知られている。映画化では昭和十年稲垣浩、大河内伝次郎主演で、戦後は昭和二十八年渡辺邦男監督、片岡千恵蔵主演、昭和三十二年内田吐夢監督、片岡千恵蔵主演で行われている。しかも、いずれも二部作、三部作の長編として映画化されている。

 大映では、過去の三作品がベテラン・スターの机竜之助で映画化されているのに対抗、若い市川雷蔵の竜之助で若返りを策し、三部作として製作に着手した。こんどの第二作は原作の“三輪の神杉の巻”と“竜神の巻”を衣笠貞之助が脚色したもので、話題としては机竜之助が後半で天誅組に加わり、爆薬で失明して盲目の剣士として登場。ラストは竜神の滝で、本郷功次郎ふんする宇津木兵馬と妖剣音無しの構えで、宿命の対決をするくだりが織り込まれている。

 「お正月映画ということは別に意識しない。ぼくとしては第二部のポイントは、やはり後半でめくらになって山に入ってから、鋭い剣の魅力をどのくらいに真に迫ったものとして出せるかにあると思っている。目の開いていたときよりもさらに一段とさえわたって、剣の迫力を殺陣でいかに効果的に見せるか・・・とにかく大いにくふうしたい」

 白装束の竜之助スタイルでセットに現われた雷蔵は重々しい口調で抱負を語る。山本富士子は、現代劇『女は夜化粧する』とカケ持ち出演の忙しさだが、相変らずの美しさをみせる。中村玉緒はこんどは“お浜”ではなく、“お豊”の役で出演している。

 「お浜は冷たい女でしたが、こんどのお豊は正反対の受け身の女性的な女。それだけにたいへんです」

 このところ実力をあげている彼女だけに、雷蔵にとっては楽しみな相手役らしい。セットでの二人はイキの合った演技をみせている。

(西スポ 12/10/60)