渡辺宙明(1925〜)

渡辺宙明は東京大学文学部心理学科卒業という作曲家としては異色の経歴の持ち主である。作曲は独学で始めたが、後に團伊玖磨、諸井三郎に師事し本格的に学んだ。プロの作曲家としてのスタートはCBC(中部日本放送)のラジオドラマの音楽であった。その後、旧知の宮川一郎(現脚本家。当時は新東宝のプロデュサーとして活躍)の伝手で、新東宝の劇映画の音楽を手がける機会い恵まれた。新東宝では「東海道四谷怪談」(59年)「地獄」(60年)など中川信夫監督の怪談映画や石井輝男監督の異色アクション「黄線地帯(イエローライン)」「女体渦巻島」(以上60年)などの末期の傑作群を数多く手がけた。中でも「東海道四谷怪談」における歌舞伎の伴奏音楽「下座」の要素を取り込んだ音楽設計は、渡辺の時代劇音楽を語る上で欠かせないものである。

新東宝崩壊後は、大映、東映、日活の各社で仕事を続けた。大映では、既知の間柄であった山本薩夫監督の要請により手がけた「忍びの者」(62年)が好評を得、同作品に端を発した雷蔵の<忍びの者シリーズ>や、安田道代(現・大楠道代)の「笹笛お紋」「女左膳濡れ燕片手斬り」(以上66年)などの時代活劇につながった。また渡辺は、映画音楽の仕事を重ねて行く過程でジャズの表現に目覚めたという。やがて彼はジャズプレイヤーの渡辺貞夫から本格的なジャズ理論を学び、自己のスタイルに反映していった。

1962.012.1 忍びの者
1963.08.10 続・忍びの者
1963.12.28 新忍びの者
1965.06.12 忍びの者伊賀屋敷
1968.05.01 眠狂四郎人肌蜘蛛