淡路恵子

1933年

黒澤明監督の「野良犬」という映画があった。製作は49年、「酔いどれ天使」と「羅生門」の間に入る黒澤明監督の出世作の一つである。三船敏郎の演じる若い刑事がピストルをスラれ、それによって起こる二次犯罪の恐怖の中で、犯人を捕まえるまでの責任と執念を描いたものである。

その中で、犯人の恋人で、場末のレビュー小屋の踊り子の役が淡路恵子の映画初出演だった。「野良犬」という映画自体が戦後の貧しかった東京の世相のドキュメンタリー的な一面を持っていて、安っぽいストリップや「額縁ショー」と呼ばれるものが氾濫していた時代に、16歳とはとても思えない成熟したプロポーションの彼女を、いかにも無知で貧乏な踊り子に仕立てて見せたことが印象的だった。

だが、あこがれの松竹歌劇団に入ったばかりで、ソロ・ダンサーの夢に胸をふくらませていた彼女にとっては、黒澤映画出演の話もありがた迷惑だった。

1959.08.01 濡れ髪三度笠
1960.07.10 切られ与三郎