大映京都で風変わりな新しい時代劇が撮影に入った。デビュー作『薔薇大名』を発表した池広一夫監督の第二作、『天下あやつり組』がそれ。

 川崎敬三、中村鴈治郎という『銀座ッ子物語』でイキのあった親子コンビのほか、浦路洋子、岸正子、北林谷栄、藤原礼子らが出演する。新人監督としては恵まれた配役で、その内容もアタマと金とユスリと色とで、天下の形勢を左右するにいたる、ガメツイ一家の動きを描く。一種のふうし時代劇だ。

 主人公のびんぼう旗本望月久蔵(鴈治郎)は、老母たき(北林)をはじめ、家族たちもそれぞれアルバイトをさせて、毎月の部屋代や食事費を取り立てているガッチリ屋。長女美乃(藤原)に、持参金と月々の手当をもらう計算のもとに、金持ち町人からいりムコをむかえ、目ざわりな長男弥太郎(川崎)と次男安次郎(豊)を家からおい出してしまう。

 金のためにおい出された兄弟は、金の亡者を見返す決意を固める。その手段として弥太郎は他人の金を利用して、買収屋を開業。また安次郎の方も、ウデにおぼえの刀にものをいわせて、弥太郎の買収に関係する幕府の要人や、財閥たちをユスリまわる。たまたま起こった、幕府の一千万円献金もみ消し問題をめぐって、買収屋とユスリ屋の兄弟が、敵味方に分かれて火花を散らす。 

 池広監督は撮影を前に、「新人監督の新しい時代劇といっても、セリフに英語が飛びだしたり、小手先をきかしたのが、必ずしも新しいとは思わない。わたくしの前作『薔薇大名』のときもそうだったが、時代劇の中の境遇を、一応現代劇のどこかに置きかえて考えることにしている。たとえばこんども鴈治郎さんの将軍(二役)が、岸君の腰元と恋をたわむれるところなど、大会社の社長さんと新入社の女事務員といった関係にしてとって見ると、近代に通じるものが出てくると思う。とにかく、本はたいへん面白いし、各人物の個性をハッキリ出して、戯画化された家庭、政治、社会を通じて、一種のフウシにまで描けたらと、たいへん欲張っているんですが・・・」と抱負を語っている。