田中絹代

1910年11月28日/山口県

田中絹代は日本映画史を飾る大スターである。38年、松竹からデビューしたが、戦後の一時期、大映において記念すべき大作を発表している。「雨月物語」と「山椒太夫」である。この二作品はともにヴェネチア映画祭に出品され、二年連続銀獅子賞を獲得した。「雨月物語」は上田秋成の怪奇文学をもとにしたもので、時は戦乱の世。彼女は夫に去られ、雑兵に殺される人妻に扮した。夫への念いがこの世を離れず、一夜、数年ぶりにもどってきた夫に、苦しかった恋慕の情を打ちあける、幽明を隔ててもなお、一途に待ち焦がれる女心のいらだちとはかなさを、夢幻的に演じて感動させた。

松竹時代、万年娘役といわれた彼女は、溝口とめぐり合うことによって、世界的大女優への第一歩を踏み出したのである。

77年3月、67歳でその生涯を終えた彼女の葬儀は、映画人葬として築地の本願寺で行われた。参列者はおびただしいファンを含めて5千人といわれたが、告別式も終る頃。その参列者がてんでに祭壇に押し寄せて、香典がわりのコインや紙幣の雨を降らせるという、感動的なシーンが現出したという。

1962.09.30  殺陣師段平