星川清司(ほしかわ せいじ)

1921年10月27日/東京都、本名清。(生前、生年を1926年と公表してきた。これは「寅年生まれは運が強い」との理由からである。死後実際には1921年生まれであることが公表され、これにより直木賞の最年長受賞記録が更新された。)

旧制山形高在学中から10数年間の闘病生活を送る。57年からシナリオライターとして大映、日活と契約。代表作に映画「暴動」(63)、「座頭市シリーズ」(63-89)、「眠狂四郎シリーズ」(63-64)、「新選組始末記」(63)、「陸軍中野学校」(66)、テレビ「三匹の侍」、「眠狂四郎」、「戦国無宿」、「わが父北斎」(70)などがある。

シナリオ執筆のかたわら小説も書き、71年「菩薩のわらい」を発表。平成元年(89)から小説に専念し、18年ぶりの作品「小伝抄」で第102回直木賞を90年に受賞した。シナリオでの受賞は63年第15回シナリオ賞特別賞「暴動」、70年第25回芸術祭賞優秀賞(テレビドラマ部門)「わが父北斎」、72年イタリア賞グランプリ「わが父、北斎」。

08年7月25日、肺炎のため東京都練馬区の病院で死去していたことが、9日分かった。86歳。東京都出身。喪主は妻愛子(あいこ)さん。「眠狂四郎」シリーズの脚本を手掛け、90年「小伝抄」で直木賞を受賞した。家族によると、26年生まれと公表していたが実際は21年の生まれ。「寅年生まれは運が強いということで(寅年の)26年にしたようだ」としている。直木賞受賞時は68歳だったことになり、91年に65歳で受賞した古川薫さんの最年長受賞記録を上回ることになる。04/09/10    【共同通信】


街  角 - その場所に作家ありて ■その20 星川清司 -

 一つの仕事が終ると、群衆にもまれて街の中を独りうろつき歩く。長いあいだの慣わしである。その愉しさ。女、男、騒音、都会の昼と夜をくぎる時。明暗をとりまぜた人々の表情を彩どり染める夕ぐれ。この街角が、どこの国の、どこの都会の、そして、どこの街角であっても、ぼくにとっては同じかもしれない。

         星川清司論       ■増村保造

 星川さんのシナリオを読むと、奇妙なト書きにぶっつかる。曰く「荘重なドラムの連打が悲劇的に高まって 」又曰く「孤独なトランペットが異様に鋭く鳴りひびいて

 音楽を指定するト書きも珍しいが、それが、悲壮なドラムやトランペットとなると、他に例を見ない。まさに星川ぶしである。

 星川さんは、いい意味で「意余って言葉足らざる」人である。青年のように多感な彼の心情は、ドラムやトランペットを借用しなければ表現できないほど、異様に高揚する。客観的な表現だけで満足するには、彼は余りにも、みちあふれ、水々しく、若い。年齢不相応に若々しい。その若さは何に根ざすのだろうか。彼の無類の人の良さから生れるのか?否。彼が、正真正銘の戦中派、醇乎として醇なる戦中派だからである。

 戦中派の最大の特性は、孤独だということである。苛酷で容赦のない戦時社会の体制は、当時の青年を深い孤独の底に追いやった。体制への批判も抵抗も許されず、一切の自由を奪われた青年たちは生きるためには、固くその心情を閉ざして、体制に服従するより外はなかった。青春の欲望を奔流させることを断念して、ただ自らの心情の中で、問い、語り、哀しみ、怒るとこしかできなかった。

 それは陰惨な禁欲である。心ならずも坊主になったような、いじましい、生臭い禁欲だった。だがしかし、その禁欲の故に、彼の心情は、水々しい若さを失わなかったのではなかろうか。現代の青年たちが余りにも解放されて自由に淫し、心情を早期に流失させて老化しがちなのと、よい対称である。星川さんは禁欲によって保存された、ひたむきな青春の心情の持主である。たとえ、その心情が恐ろしく、主観的に、感傷的に表現されるとしても。

 主観的、感傷的なのも又、孤独な人間は、外界を信ぜず、他を顧みず、自らの真情の中でのみ生きる。星川さんは、ひとりで泣き怒り叫ぶ。その感情は子供のように素朴で、少年のように過剰である。徒党を組み、義理人情の安定を図る戦前派が、客観的な抑制と、冷静な節度で生きるのと、これ又、よい対称である。

 同じ戦中派として私は、星川さんが今後もトランペットやドラムを高々と鳴らし、戦中派にしか書けない、孤独な人間を描いて行くことを期待する。                  

(「シナリオ」64年5月号より)

一年半の仕事@ A

1963.01.03 新選組始末記
1963.04.21 第三の影武者
1963.11.02 眠狂四郎殺法帖
1964.01.09 眠狂四郎勝負
1964.05.23 眠狂四郎円月斬り
1964.08.08 無宿者
1964.10.17 眠狂四郎女妖剣
1965.01.13 眠狂四郎炎情剣
1965.05.01 眠狂四郎魔性剣
1965.10.16 剣鬼
1966.03.12 眠狂四郎多情剣
1966.06.01 陸軍中野学校
1968.05.01 眠狂四郎人肌蜘蛛
共同脚本/中村努
1966.07.02 大殺陣雄呂血

 

直木賞受賞作「小伝抄」

 あの時代の映画は、なぜ今も輝いているのか―観ることの悦びを教えてくれた映画の数々。その裏側で展開された人間たちのドラマを、元シナリオライターの直木賞作家が闊達な筆で描き切る。(11/97発売)