今年に入って、西山正輝監督を起用し、時代劇に新風を送る『江戸は青空』を製作した大映京都では今回、再び新人田中徳三を起用し、民門敏雄脚本による『化け猫御用だ』(大映スコープ)を近く製作開始、コミック・スリラーに新風を送ることとなった。

 原作は『消えた小判屋敷』の香住春吾がテレビのために書き下した「化け猫騒動」「猫盗人」の二編から新しく構成したもので、八千石の旗本土屋家のお家騒動をめぐって奇々怪々の化け猫騒動が展開されるもので、出演者にはダイマル、ラケットの迷捕物コンビが予定されている。

 田中徳三監督は、大正九年の大阪船場生れ、関西学院大文学部在学中、学徒動員で出征、二十二年復員して大映入社。森一生監督の助監督を振り出しに、故溝口健二のアシスタントとして『お遊さま』『雨月物語』『山椒大夫』『近松物語』などの大作につき、一時グランプリ助監督というニックネームをつけられたこともある。

 その他吉村公三郎の『夜の河』『大阪物語』近くは市川崑の『炎上』伊藤大輔監督の『弁天小僧』についていた。田中徳三監督は、第一回作の感想を次のように語っている。

 この映画は一口にいってスリラー喜劇だ。私の第一回作でもあり、大げさにいって一生を左右する分れ目でもあるので、大いに意欲を燃やしている。もちろん娯楽作品だが、テンポが速く面白い最上級の娯楽作品にしてみたい。私がこれまで指導を受けた監督の作品系列とはいささか、はずれているが私は助監督時代の十年間テクニックや、作品のコンテ以上に先輩連中の仕事に対する態度、誠実といったものを激しく見せられて来たので、作品に対する理解力や掌握力を自分のものにして役立たせたいと思う。もちろん許されるなら、時代劇、現代劇のいずれを問わず、人間的な人間、人間の真実の姿を正しくとらえたような作品を手がけてみたい。

 例えば、吉岡清十郎という人間、彼が宮本武蔵に斬られると分りながら、立ち向っていかなければならなかった、その心の奥にある苦悩・・・といったものなども興味をひく題材だ。

 永田社長が、よく野球に例えて話をされるが、僕も今まで十年間ベンチにいて、今度初めてバッターボックスに立たせてもらえることになったわけで、ホームランとまではいかなくとも、ヒットを打って一塁に出たい・・・。

(デイリースポーツ 11/21/58)