大映のホープといわれる田中徳三監督は『大江山酒天童子』につづいて『弥次喜多狸』の製作準備にとりかかった。田中監督は時代劇のカベをうちやぶりたいと、大した意気込みだが、その抱負は━。(写真は田中監督)

 長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎、山本富士子、本郷功次郎らのスターを総動員した娯楽大作『大江山酒天童子』は、田中監督にとって荷の重い仕事だった様子。「しんどい、しんどい」を連発する。「作品のだいじな要素となった特撮のできぐあいが、演出外の問題として、心配でした。特撮機構の限界と、限られた時間での効果を考えると、いつも不安が先に立ってネ・・・。それぞれのスターのみせ場と特撮シーン━この二つが苦労のタネというところかな。特撮では実績がないだけにね」スターのみせ場も大作にはつきもの。スターを意識しすぎた欠陥が、『大江山酒天童子』に顔を出したと彼は述懐する。

「娯楽作品の宿命でしょう。この点は・・・。しかし作品の感銘としては、どうしてもマイナスになる場合が多い。演出さえすぐれていれば、オールスターものでも作品の密度を感じさせられるんですがね。どっちつかずになった悩みがふっきれないままに出ちゃったんで・・・」と頭をかく。だが、時代劇に対する抱負は大きい。

「時代劇のなかで育ってきた僕たちのおちいりやすい穴は、既成監督のマネだと思うんです。その型をそのまま受けついでいたのでは、自分の才能の発見はいつになってもダメ。その点うちには衣笠さん(貞之助)、伊藤さん(大輔)といったオーソドックスな大先輩が多い。その指導を受けながら、自分の世界をコツコツみがく。いまの状態はめぐまれていますよ。あとは現状打破の方向をどこにおくかでしょう。なにも東映のチャンバラだけが時代劇じゃありませんからね」明るい笑顔が印象的である。 

(サンケイスポーツ 05/03/60)