ベストセラーとして好評を博した三島由紀夫原作「金閣寺」の映画化。『処刑の部屋』で鮮烈なタッチをみせた市川崑監督が演出にあたっています。主なキャストは現代劇初出演の市川雷蔵を始め、その不倫な母に北林谷栄、信頼を裏切った老師に中村鴈治郎、不具者の学友に仲代達矢、美しい花の師匠に新珠三千代、洋館の令嬢に浦路洋子、遊女に中村玉緒と多彩な顔ぶれを配しています。

 父から口癖のように、この世で最も美しいものは驟閣であると教えこまれ、信仰に近いまでの憧憬の念を抱いていた溝口吾市が、父の親友で現在この寺の住職を務めている田山老師の好意で、徒弟として住むようになったのは昭和十九年の春のことです。

 溝口の母は、父が肺病で療養中、姦通していたのです。この汚れた母を美しい驟閣に近づけることを反対するのでした。古谷大学に通うようになっていた溝口は友達の戸刈から、老師の私生活を聞き、心の一角がガラガラ崩れる思いです。

 溝口は明藍池のほとりに佇み、黒々と聳えたつ驟閣をふり仰ぎ、涙を流しているのです。その夜、驟閣の闇の中にマッチの小さな焔に浮き彫りされて溝口の顔が現れました。美しくそそりたつ驟閣が夜空をこがして炎上、その美しさに溝口は魂を奪われました。しかし国宝放火犯として検挙され、京都駅から汽車に乗せられた溝口は、少しの油断を見て身体を車外へ投げ出したのです。あれ程美しいと信じていた驟閣の見るも無惨な姿を見て、この世に凡ての望みを失って命を絶ったのです。

映画情報58年8月号