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広がったフレーム 『炎上』

反射光

 日本寺院は庭からの反射光だけで、室内の明るさが保たれている。室内の人物に直射光が当ることはない。宮川はロケハンで大徳寺に行き、天井だけがポッと明るい部屋を見た。おかしいなぁと思って見回すと、庭にひかれた白砂の反射だった。そのとき『炎上』はこの感じでいこうと心に決め、反射光だけでセットの双円寺(大映京都でもっとも広い300坪のA2ステージを使った)や驟閣一階花水殿のラィティングをおこなった。この結果、われわれが寺院で実際に体験する静謐さや冷たい暗さを客観的に感じさせることに成功した。

 スコープ・サイズのフレームは、広い所を撮るにはまことに都合よく、老師の居間や庫裏は引いたサイズで広さを充分見せて描写されている。フレーム内で必要のないと思われる箇所は容赦なく真っ黒にして見えなくしてしまう。フレームをひきしめるために、広すぎるフレームは片方に柱などナメ込んで撮ったりする。フレームに黒い部分を作るのは市川も好んでいた。

 しかし、スコープ・サイズは三人のサイズや、肩ナメ、アップになると苦労する。三人のサイズで、主要人物がセンターにいても、手前の人物に動きがあると、観客は動きのほうを目で追ってしまい、かんじんの芝居が引き立たなくなる。

 狭い部屋、たとえば舞鶴に帰った雷蔵が、警官に事情を聞かれる宿屋のシーンのように、縦に二人の芝居をとらえるところでは“タテスコープ”にしたいと冗談をいうくらい苦労する。