@ 父(浜村純)から“な、吾市。驟閣ほど美しいものはこの世にない。お父さんは驟閣のことを考えただけで、この世の汚いことはみんな忘れてしまうんや”と、中学生の吾市(雷蔵)は聞かされる。

 生来のどもりで、内攻型の溝口吾市(雷蔵)は、亡父の親友田山老師(鴈治郎)の好意でこの世で最も汚れなき美しきものと教え込まれていた憧れの驟閣寺の徒弟となったが、戦後、押し寄せる観光客で、寺はうるおい、老師の生活も一変した。その変転が悲しかったが、彼は愈々驟閣寺への愛着を深め、米兵と戯れる女をそこから引きずりおろしたほどだった。

A 憧れの驟閣寺の弟子となった吾市の日々は光明にあふれていた。空襲警報が鳴りわたっても、平気で掃除をしていたが、故郷から面会にきていた母(北林谷栄)に防空壕へ引きずり込まれる。

 そして生活苦から寺に住み込んだ母(北林谷栄)をも、父の療養中の姦通ゆえに驟閣へ近寄ることを許さなかった。