雷蔵さんにやらせてみたい。雷蔵さんがやったらいい作品が出来るだろう。そんな気持ちでファンの誰もが久しく待ち望んでいた作品『破戒』である。

 今号でその『破戒』を特集として取り上げました。ここでは小説「破戒」についてのべるのではなく、映画の『破戒』について、あらゆる面から紹介し、鑑賞の手引としていただきたいと思います。


 始めに、この作品を監督する市川崑氏とこの作品のシナリオを作られた和田夏十さんに「破戒」についてのべていただきましょう。
 
「明治大正文学の傑作として皆さんが親しまれている藤村の小説を基にして創るのですが、小説にあるような階級的偏見は現在ではすでにないという視点で描きます。主人公丑松自身にひそむ人間的な弱さを、きびしく一般化して今日的課題に発展しようと思っております。これは、青春の魂のさすらいの物語です。私たちは、映画というものを皆さんにいつまでも愛していただきたいと願いながらこの『破戒』を製作します。」

ではこの作品のテーマはなにかという問題になりますとあくまで「人間の魂の問題で丑松という青年を中心とした人間たちの人生模様、そして孤独な青年丑松がどの様にして立ち上がるかを客観的に見つめたいのです」

とも語っていらっしゃいます。
 さてそうすると、青年丑松を通してどの様にして人間の魂の問題を表現するか。さすれば、主人公丑松はそれを的確に表現出来る俳優という事になると・・・雷蔵さんを押して他にいないいと、市川監督が次の様な言葉で雷蔵さんに期待をよせている。
 
「雷蔵君は、テレビの染五郎君が見せてくれた若々しさとは又違った柔軟な演技の持主だ。時代は『炎上』よりも深刻だが、彼なら暗く孤独な青春を的確に表現してくれるだろう」
とその力量にたよっている印象である。
 ここでそうした期待を受けて立つ雷蔵さんに登場願って、その言葉を聞いてみましょう。
「この原作は青年時代からの愛読書で感激して読みふけったものです。ですから単なるリバイバルものだと考えないで下さい。少年の頃、映画や芝居でみた事がありますが、いずれも主人公に納得出来なかったのです。しかし今度のシナリオは大変いい。そこには階級的なものを越えた何かを感じました。これを素直にスクリーンに伝えるのが私の任務だと思いました。キャストも相手に不足のない人ばかり。演技の計算などしないつもりで、ただがんばるつもりです。」
 雷蔵さんがおっしゃlちている相手に不足のないというキャストをは、すでにご存知でしょうが、次の様になっております。

瀬川丑松(市川雷蔵)、土屋銀之助(長門裕之)、風間敬之進(船越英二)、お志保(藤村志保)、猪子蓮太郎(三国連太郎)、蓮華寺住職(中村鴈治郎)、猪子の妻(岸田今日子)、校長(宮口精二)、奥様(杉村春子)、丑松の叔父(加藤嘉)、丑松の父(浜村純)、鷹生館の女将(浦辺粂子)、高柳利三郎(潮万太郎)、年配の牧夫(見明凡太郎)

   

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