さて翌日、九時開始のはずが、セットの準備等で撮影開始午後一時。今までこの作品で感じられた事、それはワンカットが長い事で、常の作品よりもその緊張感も大変です。本番がかかると、風邪を引いている人はそのい長さにたえられず、自らセットを出て行く様にしているとか・・・余談はさておき、シーンは父の死を知らされた丑松が、迷わずここに来られたのは、父が私を呼んだからである、と云うと叔父は「そうではない丑松、忘れるな!丑松隠せ!」と云ったのだといい、丑松は「なぜ部落民なんかに生れたのか!」と泣く。こうした心の内をアップで撮るのだが、長いセリフのため、カメラをたえず移動させながらやるだけに、すべてが大がかり。何度もテストを繰り返し、本番かと思うと市川監督がダメを出し、雷蔵さんに泣く所を自分からやってみせ指導する。

 さて本番かと思うと、宮川さんがライトに注文を出すと云った具合で・・・その内主演者を立たせたまま、監督とカメラマンは意見の交換をはじめる。やっと監督のテストの声、雷蔵さんのうれいを含んだセリフ。カットの合図までは、見ている人も息をするのを遠慮したい様な圧迫感に、大作なんだなァと思いました。雷蔵さんの顔をみると、目のまわりが赤くなっている。役になりきっているんですねェ。そして「お疲れ様」の声を聞いたのが、それから約五時間もたってから・・・火の気のない寒いセットに、一度も座らずに立っていた雷蔵さんの足袋は、土の湿気で真っ黒になっていました。その日は又、夜間撮影があったそうです。


 
 セット撮影の一部を御紹介いたしましたが、意欲を見せているのはスタッフ、キャストばかりでなく、宣伝部も同じ事。「新聞広告の写真にも市川監督は注意を払う入念さで、報道関係も一日に幾社もかち合ってセット見学に訪れるといった具合で、それだけに期待も大きいわけです。又、全国の方々にもれなくこの作品を見に来ていただきたいと思って、努力しております」との事でした。

 又、雷蔵さんの相手役に抜擢された藤村志保さんも「雷蔵さんの相手役になるなんて夢みたいです。ほんと云って雷蔵さんのファンなんですもの・・・今は一生懸命やるだけです。雷蔵さんも親切に指導して下さいますので・・・」と明るく答えていました。

 ここで一寸つけ加えておきたい事は、「破戒」が最近、テレビでドラマ化され、その水準をぬく出来ばえと評判をとったものだけに、テレビと映画の違いを伺ってみました。

 「テレビは三十分という枠の中、ドラマをはめこんでいく性格上、時には無理な構成をしなければならなかったりしますが、映画では画面はワイド、劇の盛り上げ方にも巾がもいてる、そういう意味からも、映画のよさを再認識してもらうのに絶好の素材だと思っている」との事でした。

   

 

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