切られ与三郎と云うと歌舞伎の名狂言として古くから舞台ファンに親しまれてきた題材ですが、映画は玄冶店の部分だけを原作(乾坤坊良斎が講釈に脚色し、さらにこれを瀬川如皐が歌舞伎に仕組んだものから)から採用して、あとは伊藤大輔監督のオリジナルで新しいストーリーが展開するという新解釈で、お富との数奇な愛憎流転の姿を描くと共に、伊藤監督創作のお金という与三郎の義妹が彼にからんで来て、ラストはこのお金と共に海に入水すると云う感動的にむすんでいるのがその特色だ。

 雷蔵さんと伊藤監督とのコンビはすでに皆様御存知の通り、それにカメラがベテランの宮川一夫さんと云った顔ぶれですが、とくに、舞台出身の雷蔵さんにとっては、寿海さんの当り狂言というだけで、その張切り方は大変なもの。

 現在までにほぼ決定した配役は、与三郎に雷蔵さん、お富ー淡路恵子さん、桂ー中村玉緒さん、お金ー富士真奈美さん、蝙蝠安ー多々良純さんと云った所です。

 伊藤監督の話 玄冶店の見せ場を全部入れてくれという注文でホンを書いたものの、弁天小僧の時は劇中劇の様な型で逃げたが、こんどはそういうわけにも行かず、最初から舞台的なフンイキにもって行く様につとめた。雷蔵クンの与三郎はまさに打ってつけだと思っている。

 雷蔵さんの話 ぼくたち舞台出身の映画俳優は、昔から日本人に親しまれて来たカブキの名作を若い世代の人達に知ってもらうという意味で、こういう種類のものの映画化に努力することが、他の俳優さんには出来ない大きな仕事だと思っている。その点大いに張切ってやりたいものの一つです。幸い父が何度もやって来た当り狂言だけに、撮影にも立会ってもらっていろいろ指導してもらうつもりです。封切りは七月三週、関東のお盆の予定です。

                                                                      「よ志哉」17号