十年ぶり

 最初は、ただ何となく出発した私の俳優生活でした。戦争末期から戦後へかけての、混沌とした世相の中で、それ以上に学業を続ける意欲を失った私が、たまたまその時の父が歌舞伎俳優だったという理由だけで−、

 さて、入ってみると、だんだん意欲も湧いてきましたが、歌舞伎の世界せは他の人より十年も出発が後れている上に、名門の子弟ではないという二重のハンディのため、私の夢は容易にかなえられそうにない状態でした。そんな不満をいやす目的で、私たち若い者ばかりの勉強会を作ったのです。これがやがていわゆる武智歌舞伎へと発展したわけで、当時の若い私たちに大きな励みともなり、希望の灯をもたらしてくれました。

 しかし私はそれでもなお押さえきれない情熱に駆られて、ついに映画の世界へ入ることになりました。

 そして、十年私は一心不乱に俳優の道を進んできたつもりです。今度の日生劇場の舞台へ立つ機会に恵まれましたが、これで私の長い間の夢がようやく花開いた思いです。果たしてどれだけの実りが舞台で収穫できるか、大きな楽しみです。(日生劇場出演の筋書きより、昭和39(1964)年1月2日初日)