歳末放談 一九五十七年を輝かしき年に

・・・・・石の上にも三年というが、とにもかくにも映画入りして三年目の正月を迎えることになりました。この間に四十本ほどの映画に出ましたが、概して時代劇というものは準備期間も少々、「新平家物語」を別格とすれば、別にこれという気に入った作品もなしに終ったように思います。歌舞伎時代から数えると、私も来年は芸道生活十年目というこになりますのに、ここらで何か決定的なものを出して、今後の私の道を確固たるものに築きたいと願うわけです。そういう意味では来年こそ、のるかそるかの瀬戸際だと自分では思っています。

幸い今年の暮れから撮影を始める「大阪物語」「朱雀門」と二本の大作に掛けもちで出演することになり、大いに気を強くしているところですが、「大阪物語」の方は時代劇としては、ストーリーも面白いし、また会話のうま味もあって仲々立派なシナリオだと思っています。ただセリフが大阪弁になっているので、全国の誰が聞いてもわかるような関西弁で話すことがかえって難しいというわけです。今までの私にはなかった“性格的な汚れ役”だけに、時代劇における取りすました無理な芝居もなく、生身の自分を生かせるところなどが、この作品の大きな魅力でしょう。

また「朱雀門」は、カラーでもあり今までは“清盛”に次ぐ、あるいはそれ以上に難しい役だと思っています。清盛はいわば体当り的な演技でカバーも出来ましたが、こんどの“有栖川宮”は初めての“大人”の役どころで、最高の品位を要求される役柄です。また、和宮、夕霧と、二人の女性を相手に情熱的なラブシーンをするのはこれ又、初めて。情熱にまかせてやれば品位をけがすことになり、品位を落さずに燃える情熱を表現するあたりが大へん演技的に苦労するところです。

この二作品は“汚れと品位”というまさに両極端の役を私に与えてくれたわけですが、できればこの二本を一つ契機として、来年こそ映画の本流に流されることが出来ればと、ほのかな期待をかけています。

このほか念願の時代劇も来年中には一、二本実現させたいと思っています。むろんこれは時代劇を中心にした勝手な考え方かもしれませんが、異った芝居を勉強することによって、本筋の時代劇に何物かをプラスするのではないかと思うからです。

いま私の抱いている企画の中には加藤道夫の「なよたけ」と井上靖の「風と雲と砦」という時代劇の原作物が二本ありますが、さきの現代劇とともに、会社にもよくお願いして来年は何とか取上げてもらえるように努力するつもりです。

こういえば随分欲ばりのようですが、そのためには当分舞台のことは考えず、映画一本に徹底して、この重大な時機を乗りこえたいと、いま猛烈なファイトを燃やしているところです。来るべき一九五十七年度を私の輝かしい年にするために。