淡島さんとは初共演

 メーキャップ、衣裳付けなどに約四十分、こんどの戌亥竜太郎という人物は、ただ剣のみに生きるニヒルな青年剣士、雷蔵さんにとっては初めての役どころだけに大へんな張切り方です。きょうのロケは京都府下の亀岡から更に奥深い山の中、愛宕山の裏にあたる人里はなれた神吉池というところです。山肌が幾重にも重なる美しい景色を眺めながら、曲りくねった山道を車で二時間近く、やっと現場にたどりついたころには、すっかり疲れが出た様子でしたが、スタッフの待ち構える前ではそんな素振りも見せず“お待ちどうさん”と気持ちよくカメラの前に立つ雷蔵さんでした。きょうの相手役はこの映画で初顔合せの淡島千景さんです。ここでのシーンは剣山の山麓、ベテラン淡島さんを向うに廻わして少しもヒケをとらぬ堂々たる演技振りです。

 ピーカン照りの好天に恵まれたこのロケ、どんどんカットは進んでお昼前には予定の撮影分をすっかり終えていましたが、折角持ってきたお弁当だからというので、ここで昼食をとることにしました。川魚のほかは別に好き嫌いのないという雷蔵さんは海苔巻きのおにぎりに、玉子焼や牛肉の甘煮などをおいしそうに口に運んでいます。やがてそうもゆっくりしていられないと、雷蔵さんは二時からとることになっている『鳴門秘帖』の特報にも出なければならないので、スタッフより一足先に淡島さんと車の人になりました。


 スタジオではA班が長谷川一夫さん、山本富士子さんでセット撮影を行っていますが、雷蔵さんたちの帰ってくるのをまち構えて、早速四人の顔合せスナップを特報用に撮影しました。その間も、出来上ったばかりの“映画ファン”を楽しそうに眺めたり、宣伝部が持ってきたスチールに目を通したり、片時もじっとしている時はありません。本当に目の廻るような忙しさです。