私の三つの話題

 最近、私の生活の中で変った出来ごとが三つ起りました。先ず第一は始めて現代劇に出演した事です。それは多摩川の大映東京撮影所で撮影した衣笠貞之助先生の監督作品『薔薇いくたびか』で、私の役は長谷川一夫さんの舞踊家の愛弟子ですから舞台姿の神代時代の扮装だけなので、観客は厳密な意味での現代劇出演と認めないかも知れませんが、とにもかくにも私に取っては現代劇で、色々収穫がありました。

 第二は生れて始めて飛行機に乗った事です。それは東京で撮影した帰途の事で、当時京都では『鬼斬り若様』に出演して居り、その多忙なスケジュールを縫っての上京だったので、汽車で帰ったのでは時代劇の方が間に合いません。そこで一緒に帰る長谷川一夫さんにすすめられ、生れて始めて飛行機に乗る事になりました。生憎その日の天候は悪く、風雨が窓を叩き、内心いささか不安の念を禁じ得なかったのですが、長谷川さんの口からでる四方山も話題に引き入れられている間に機外の悪条件を顧みる余裕がない程楽な気持で二時間を過し、伊丹空港に無事着陸したときは先輩長谷川さんの温かい思いやりに感謝せずにはいられませんでした。

 第三は只今撮影中の『綱渡り見世物侍』の風変りな役の事です。従来、私の演じた役は殿様にしろ侍にしろ、三尺物にしろ、とにかく絶対強い英雄であり、すましきった二枚目なのです。所が此の映画では若殿様の他に、浅草の曲芸師という、いなせな芸人の二役になるので、この方は役は全く型破りの物です。この人は顔が全く瓜二つなので、お互いに周囲の者から間違えられ、恋人は知らずにやって来るわ、悪い家来さえ欺されるわという大騒動になるのです。

 江戸ッ子力太郎は市松格子の袷を素肌にひっかけているといった、スッキリした、こしらえだし、気性もさっぱり竹を割ったよう、三枚目ではないが、一寸ユーモラスな性格でもあるし、事件が奇想天外なので梢々喜劇的な演技を必要とする個所もある。こうした役は全く私に取って破天荒なのです。つまり三尺物や、武家のように四角ばらず、楽な気持で自由な演技をやれるという強味もあり、何とかこの力太郎の役で新しい芸風を開拓しようと努力して居ります。脚本は近来にない面白さだし、監督の加戸先生も所謂、時代劇臭くない物にする意図を持って居られるので、期待以上の作品になるのではないかと、いささか自負して居ります。

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