雷蔵と共演したアメリカ生れの学生スター、その目に映った彼の魅力は?

日本の印象とともに

−木々の茂みのあいだから、金色の十字架がひときわ高く光ってみえる。島原半島の南端にある、日之江城というお城のなかの天主堂の場面でした。

 石段の前に、市川雷蔵さんが立っています。雷蔵さんの役は、このお城の若い主人で、熱烈な切支丹宗門の庇護者なのです。

 ついさっきまで燃えるような夕陽に、美しい色彩を映していたステンド・グラスも、いまはすっかり昏れて、厳かな会堂の内部はシンと静まりかえっています。ミサの曲に和してきこえた会衆の声も、いつか消えて、いつまでも、そこに立ちつくしている雷蔵さん、昔の大名の衣服をきて・・・。そんな雷蔵さんの姿をみていると、おもわずうっとりとして、現実的な空想にとりつかれます。

「クララ・・・」

 と、雷蔵さんの赤い唇が、微かにうごいて、わたくしの名を呼びます。

 「ジャン有馬の襲撃」というこの映画は、1609年、日本の歴史でいえば徳川家康のころの物語で、雷蔵さんの扮する有馬晴信という、一人の日本人の人間的な美しさを描いたものですが、わたくしの役は、その雷蔵さんの家来の娘で、いつか雄々しい雷蔵さんの姿に、そっと心のなかで人知れない思慕をよせるようになります。

 

エリス・リクター(映画女優・上智大学在学)

 わたくしは、イリノイ大学の社会学科を出て、二年前、両親と妹の四人で、日本にきました。父は「スターズ・アンド・ストライプス」紙の編集長をしています。雷蔵さんの名は、妹がファンで、よく知っていましたが、お会いしたのははじめてです。

 現在わたくしは、上智大学で東洋史や東洋美術の勉強をしていますが、アメリカの大学にいたころは、特別に日本や、日本人について勉強したことはありませんでした。ただ、兄が四国の愛媛の大学の先生をしていますので、この兄からいろいろ話をきかされたことはあります。そして自分が、実際、こんど日本にきてみて、この国はとても美しい国だとおもいました。特に日本のお寺や、庭の持っている美しさは格別です。その美しさは口ではちょっと説明できないような、深いもので、桂離宮をはじめ、石庭とか苔寺とか、有名な場所は全部見ました。

 わたくしの雷蔵さんに関する感想も、こういう日本や、日本人に対する良き印象と別に考えることはできません。