美しい眼と手

 雷蔵さんは、たしかにかえ難い魅力をもった俳優です。彼はまず、非常にハンサムです。日本の希望と明るい未来をもった若い世代の女性たちが「ライゾウ ライゾウ」と彼を迎える気持は、わたくしにもよくわかります。

 美貌ということは、俳優にとって、かならずしも欠くことのできない条件だとはいえないでしょう。しかし、それが個性的であるということは重要なことです。そういう意味で雷蔵さんは、きわめて個性的な美貌の持主であるということがいえましょう。わたくしの考えによれば、もっとも素直に語る自由を与えていただくならば、ミスターライゾウのもっとも大きな特徴は、彼の眼と手にあるとおもいます。

 彼はじっと、ものを見つめて、たじろがない眼を持っています。その眼は涼しく澄んで、なにものをも見透さなければやまない情熱と、冷静な判断とにかがやいています。またその眼は、生き生きとした表情をもち、彼に与えられた役の、どんな役の、どんな場合にも、いつでもそれに応じられるだけの演技力の変化をもっています。彼は、こういう美しい眼を、どこから学んだのでしょうか。

 それは彼が、先天的に美しい眼の持主であるといことはいうまでもありませんが、他のもうひとつの理由としては、雷蔵さんが、日本のもっとも美しい伝統芸能の一つであるカブキの出身であるということが、大きな要因の一つを占めているようにおもわれます。それと、彼のたえざる訓練と、研究の成果。

 日本のカブキは俳優に、きびしい、長い年月の修練を要求する芸術だときいています。そういうことを、わたくしにおしえてくれたのも、みじかい時間でしたが雷蔵さんのそばにいて、雷蔵さんの芸術的な眼の使い方に感動したわたくしの収穫です。

 忘れられない、雷蔵さんの眼!それと、彼の手です。

 わたくしは、はじめて彼と会ったときに、挨拶の握手をしました。握手というものは、それを通じて表現される人間の共感であり、おたがいにおたがいをもっともよく知り合う一つの機会です。

 雷蔵さんの握手は力づよく、人間的な信頼と友情がこめられていることを、強く感じます。そして、彼の手を見ると、誰もが男性的な、立派な手をしていることに気がつくでしょう。

 彼がもっているさまざまな美しいもののなかで、彼の眼と手は、特にわたくしには美しいものにおもえました。彼はそれで、いつも彼の周囲に美しい雰囲気をつくっていく!そういう彼と、わたくしとのあいだに、こんどの映画のなかでラブシーンがなかったということは、はなはだみなさんのご期待に添えないことであると同時に、わたくし自身も、どんなにか残念なことにおもっているかということは、これでみなさんにもよくおわかりのこととおもいます。