今年は海外旅行です
特別対談 
有馬稲子
市川雷蔵



腹を立てることです

有馬 しばらくでした。

雷蔵 どうも・・・。

有馬 「炎上」よかったわ、演技賞をおもらいになるんですってね。

雷蔵 そうですか?聞いてませんよ、本人に知らせてくれませんよ。

− 「炎上」は大変評判よかったのですが、雷蔵さんのファンとしてはどうなのでしょうか、ああいう役をおやりになるのは?

有馬 いやだって、言って来ませんでしたか?

雷蔵 それがそうじゃないんです、よろこんでくれましてねぇ。

有馬 理解のあるファンですね。

雷蔵 その点最大の誇りとしているんですよ。僕の後援会と言うものをね。あれをやる前に後援会の会誌に、僕が原稿を書いたんです、自分はこう言う気持でやるから、是非見てくれって、僕のつたない原稿で、僕の気持を理解してくれたんですね。出来たのを見て、よろこんでくれました。まあ、あんなドモリできたない、別にきたなかないけど称するところのヨゴレ役なんですが、僕の気持に賛成してくれました、批評もよかったし、ファンの反感を買う様なこともなかったですよ。

− 有馬さんの場合はどうだったのですか?「夜の鼓」に出て?

有馬 私の時も、ファンの人達はよくわかってくれていますから、あんなのやめろなんて言って来ないのよ。批評ではさんざん言われましたし、撮影中は本当にシボられましたけど、やってよかったと思っているんです。役者は一年に一作はシボられるものがないといけないと思うの。シボられないと何となくゆるんじゃって、そりゃあどんなものでも自分では一生懸命やってますけどね。

− 雷蔵さんは「炎上」では市川(崑)監督にシボられたんですか?

雷蔵 そうですね、シボられたって言うんじゃないですけど、市川さんという方は熱っぽい人ですからね、シボられると言うのだったら、昔、まあそれほど昔じゃないですけど、溝口(健二監督)さんにシボられましたから、今度はマイッタと言うことはなかったですね。

− 撮影の前にドモリを習いに学校に行ったとか?

雷蔵 学校に行ったと言ってもドモリの学校って言うのはドモリを直す学校ですからね、ドモリの人の気持をききに行ったんですよ、そこの先生で中学生の時分、ドモリだった人がいたので、体験談をきいたんですよ、丁度いい人がいた訳です。

− 有馬さんは「夜の鼓」では相当苦労されたんですか?

有馬 時代劇だからって言うので苦労はしなかったの、日本舞踊をやっていたし、今はダメですけど。それに今井(正)先生は形にとらわれるのはきらいな方ですから、時代劇だからどうのってことはなかったわね、批評はボロチョンでしたけれどね。本当にひどく書かれたの「水の如く作者に虐待されて演技もまずい」って書かれたのよ、どう言う意味かよくわかんないけど、ひどかったわ、今は何とも思っていないけど、その時はね。

− 雷蔵さん批評を気にしますか

雷蔵 気にすると言うのではないけど、一応は批評を見る必要があると思うね、我々は見せる方の立場ですからね、見る人はどう見ているのだろう、と言うことを知る意味でね。

有馬 納得がゆく様に書いてくれるのだったらいいと思うの、此方も完璧とは思っていないんですから。私、昔から言いたいことを言って、損して来たことずいぶんあるけど、何か書かれても、コンチクショウと思う気持があるから今日やっているのだろうと思うの、ファンの手紙で励まされることはあるけど、批評でたたかれたかってうらむと言うのではないの、それはそれとして次にやればいいと最近は思う様になったわ。

雷蔵 腹を立てることはいいことだし、必要だと思いますし、大変立派ですよ。腹を立てないのは役者の精神としては間違っていますね、気にして腹を立てればいい、そのことが次の物に飛躍していって、その反発が出ていくんですから。

有馬 そうですね、私「夜の鼓」でひどく書かれた時に谷崎(潤一郎)先生が「心」って言う雑誌に書いていらっしゃる日記の中に、この映画の私をすごくほめて下すったの、ああいう女がいたら、自分が恋をしたい女だって、これ見て、うれしかったわ。