泣くことです

−今年これだけは、と言うような希望しているものありますか?例えば外国に行きたいとか?

雷蔵 それは決っているんですよ、七月に行くんです。

有馬 どちらへ?

雷蔵 一ヶ月ですけどハワイからアメリカへ。

有馬 私も春に、四月頃に行きたいと思っているの、初め恵子(岸)ちゃんが帰る時、一緒に行こうと思ったのよ、一人じゃ言葉がわからないから丁度いいと思って、そうしたら恵子ちゃんの帰りが意外と早くなったので、一人で。

雷蔵 四月頃がいいですね、演劇もシーズンだし。僕は好みとしては欧州がいいんですけど、今、とにかく一等国と言われているアメリカですから欧州は又の機会に廻して、先ずアメリカを見て来ようと思って・・・。

有馬 私、三ヶ月ぐらいは行きたいと思ってギリシャとか、スウェーデンとか。

雷蔵 無目的ですか?

有馬 ええ、雷蔵さんは?

雷蔵 僕も目的なしですよ、見ると言っても、この頃は映画で各地のいろんなものを見てますから、おどろくことないと思うんですよ、景色なんかは。だから映画では見られないもの、ブロードウエイの舞台は見たいですね、ミュージカルはすばらしいですよ、想像つかないものだそうですね。

有馬 音楽はお好きなの

雷蔵 自分では何も出来ませんけど、音楽は好きですね。

有馬 アメリカに行くとしたら、時間があればですけど車でゆっくり見ることですってね、それが一番いいんですって。

雷蔵 そうですか。ギリシャに行きたいと言うのはどうして?

有馬 芸術手帖(雑誌)だったかに、いろんなギリシャの写真と記事が出ていてそれを見ていたら、モーレツに行きたくなっしゃって。勿論パリにも寄りたいし、恵子ちゃんのところに御厄介になろうと思っているの、そして、お芝居もみたいし。

雷蔵 会いたい人は?

有馬 別にいないわ、雷蔵さんはいますかハリウッドで。

雷蔵 会ってみたい人ねえ・・・。僕はジェームス・スチュワートかな、好きですから、俳優ではね、それからバート・ランカスター、俳優としても嫌いじゃないけど、あの人のプロデューサーとしての才能はすごいですね。

有馬 本当にすごいわね。

雷蔵 欧州はフランスとか、イタリー、イギリスでしょうね、僕が行けば、芝居が見たいですね、言葉はわかんないけど、いい芝居はわかるらしい。

有馬 芸術座(来日中の世界的劇団『モスクワ芸術座』)見ていてもわかるわ、言葉がぜんぜんわかんなくても、素晴らしいもん。

雷蔵 芸術に国境なしって言うじゃない。

有馬 芸術とは、素直に胸にすっと入るものですって。

雷蔵 本当の芸術になっていればそうなるんですね。

有馬 芸術座を見ていておどろくことは俳優さんが皆んな年を取っていることね、長い間やっていてその積み重ねたものがちゃんとあるのね、本物って言うものが。杉村(春子)さんなどが芸術座の人達と座談会をやったら、向うの方が役者心得を三つ言ったそうですけど、それは才能を磨くことと、もう一つと、それから泣くことですって、苦労して泣くことって言われたんですって・・・。

雷蔵 何んでも苦労しなきゃだめですよ。

有馬 本当にそう思うわ。

雷蔵 誰でもそうですけど、徳に芸術家はね。遊び半分でいてうまく出来るってことはないですよ、何んでもね。そりゃァ、苦労ばっかりしてそれだけの人もありますよ、中にはね、それはその人の何かが足りないないんだと思うんです。苦労してそれを自分のものとすることですね、苦労したことを消化して自分のものにする。

有馬 特に私達はね。