“雷蔵オジサン”にショック

 四月二十一日、午後九時。宿舎の帝国ホテルを出て、夜の銀座へ−

 この日の雷蔵のイデタチは、グレーのシブいセビロに紺のネクタイ。貿易会社の社長秘書か若社長かといったさりげなさだ。織るように通る人たちもほとんど気づかない。みゆき通りで、向うからきた二人連れのお嬢さんのうちの一人が、

「あ、雷蔵じゃない?」と目をみはったが、連れが、「あら、ちがうわよ」と打ち消すと、「そうねェ、でもちょっと似てたわね」と笑いながら、ふり返りもせずに行ってしまった。

 東銀座のビルの地下にある、バー「K」に入る。編集部がアレンジしたメリー吉尾さん(18)が、ここの女給をしているのだ。名前の示すとおり、彼女は日英の混血児で、いま流行のトランジスター・グラマー。きょうは、銀座のビート族姉さん株である彼女に、友だちを数人みつくろって召集をかけておいてもらい、雷蔵さんとセイダイに遊ぼうという趣向である。

 ボックスが二つに、スタンドのイスが七つばかり−これもトランジスター型にちんまりしたバー「K」の内部は、タバコの煙でもうもう。奥の方に三、四人、固まっておしゃべりしているのが、メリー吉尾とその一党らしい。

 雷蔵さんが入っていくと、連れの記者が紹介するひまもなにもありはしない。百年の知己のように、たちまち勝手なおしゃべりがはじまる。メリーのほかの二人がマアコとチー坊であることがお互いの呼びかけからわかったころ、メリーが、

「オジサン」と呼びかけた。呼ばれた雷蔵も、まさか自分のことだとは知らないからボンヤリしていると「雷蔵オジサン!」と、たたみかける。雷蔵のショックに打たれた顔−

「雷蔵オジサン、どこへいこうか?きょうはオジサンがスポンサーなんだから、高級なるとこへいこうよ」

 いやもおうもない。行先は丸の内のナイトクラブ「M」ときまった。