おしゃべり試合・美男流
大川 橋蔵 X 市川 雷蔵
冬がもうすぐそこまでやってきた京の町。ゆく秋を惜しむように、舞妓さんのだらりの帯がゆれています。そんな戸外の寂しさとはうってかわって、二人の美男チャンバラ・スタアが、酒をくみ交しながらのおしゃべり試合は、はじけるような笑いに包まれて、一足先にもう春がきたようなにぎやかさです。
☆十代とはあつかましい
雷蔵 おそいぞ、おそいぞ。
橋蔵 なにしろ忙しくてね。昨日なんか、二十四時間ブッ続けのセットでねえ・・・。
雷蔵 よう身体がつづくネ、君は・・・。
橋蔵 もうフウフウ・・・。
雷蔵 でも、えらいもんや。(と感心したような面持ちで)そんなにかせいでどないするんや。なんかわけがあるんやないか?
橋蔵 わけって?
雷蔵 たとえば、ホレ結婚準備とか。
橋蔵 じょ、じょうだんじゃないよ。そんな・・・今はただ仕事、仕事。(笑)
雷蔵 うまいこというて(笑)ぼくをごまかしたら、あかへんで(笑)
橋蔵 やだなア、知らない人が聞いたら、本気にするじゃないか。(雷蔵さんの腕時計を見ながら)それはそうと、その時計ずいぶん、薄いね。
雷蔵 これか(とちょっと自慢そうに)ええやろ、九十万円や。
橋蔵 ええっ?
雷蔵 九十万円やで。
橋蔵 うそだあーい。
雷蔵 ほんまや、どうしてそう人を信用しないのかな。二つで九十万円や。
橋蔵 へえーっ、二つでねえそんな高いの、二つも買ったのかい。
雷蔵 まさか・・・。一つだけやっと買ったんや。どや、あんたも一つ。いいもんやで。
橋蔵 とてもとても。こっちはまだ自分の家もない有様なんだから。時計じゃ住むわけにもいかないからね(笑)
雷蔵 なんか地所を買ったとか聞いたけど、どないした?
橋蔵 だめになっちゃったんだよ。いい地所だったんだけどね高台で・・・。
雷蔵 惜しいね。他は探してみたの?
橋蔵 いろいろ探してるんだけど、いい所がなくてね。その高台の地所は、九分通り話がうまく行ってたんだけどね・・・。それで自分で、いろいろと設計してみたりしてね。
雷蔵 ほほう、どんな。
橋蔵 丘の上にプールを作ったりさ、ベランダからは京都の街が一望のもとに見下せるとかね。
雷蔵 豪勢なもんやね。そこまで考えていて、ダメになったのは、ほんまに残念やなあー。
橋蔵 全部ご破算。しょうがないから計画を一応白紙にもどしてね、とりあえず、どこか家を借りて、それからゆっくりといい場所をさがそうと思ってるんだけどその家も手頃なのがなくてね。
雷蔵 宿屋住いじゃ不便だものなあ。
橋蔵 荷物ばかりふえて、いまに寝るところもなくなりそうだよ。
雷蔵 それじゃ、まだ当分結婚なんて出来へんな、かわいそうに(笑)
橋蔵 おやっ、雷さんヘンだぞさっきからしきりと結婚のこといってるけど、ははあ、さては雷さんいい人が出来たな(笑)
雷蔵 コラッ、あほいわんときそんな人がいる位ならとっくに結婚してるわ。
橋蔵 ほんとかな(笑)雷さんならもう立派な家もあるし、いつでも結婚出来るんだから。
雷蔵 そりゃ、しようと思えば出来るけど、相手のいるもんやからね映画のようにはうまくいかんわ・・・。
橋蔵 うまく逃げたね。でも僕よりも雷さんの方が、早く結婚するような気がするけどね。
雷蔵 そんなことわからへんで・・・。橋蔵さんの方が早いとぼくは思うとるんやけど(笑)第一、ぼくと橋蔵さんはとでは世代がちがうやろ。
橋蔵 セダイ?
雷蔵 そうや、ぼくは二十代やけど、あんたは(笑)
橋蔵 そう、ぼくはまだ十代だから(笑)
雷蔵 あつかましい(笑)なにが十代や、そんなティーンエイジャーがいいたら、世の中がめちゃくちゃになってしもうわ(笑)
橋蔵 大げさな。でもね、こうして二人で並んでいると、どうしてもぼくの方が、年下に見えるだろう。
雷蔵 (しげしげと橋蔵さんの顔を見ながら)ほんまに・・・。
橋蔵 そうだろう。
雷蔵 いや、あつかましい(笑)だいたいやね(と自分の鞄から手鏡を出して橋蔵さんに見せながら)一緒にいるのがぼくなんやで、ちょっと鏡を見比べてみいな。
橋蔵 (鏡の中をのぞきこみながら)やっぱり若い(笑)
雷蔵 もうあかん、話にならんわ“亀の甲より年のコウ”年上の人にあったら云い負かされてさっぱりや(笑)